地域の皆さんに支えられながら 〜山里の診療所で感じる,地域 高橋 毅(公益社団法人地域医療振興協会 今泉記念館ゆきあかり診療所) レジデントノート2016年2月号掲載 [SHARE] ツイート ゆきあかり診療所は,新潟県南魚沼市石打地区にある「道の駅南魚沼」の観光交流拠点である今泉記念館内に,2013年10月に新規開所した診療所です.私は診療所唯一の医師として,開所当初から勤務しています. 南魚沼市は「魚沼産コシヒカリ」の産地として有名で,稲刈り前の季節には,診療所の窓から綺麗な稲穂を一面に見渡すことができます.また,1年のうち半分程度が雪で覆われる,全国でも有数の豪雪地帯です.石打地区にも石打丸山スキー場をはじめとして多くのスキー場があり,冬季には多くの観光客でとても賑わいます. ゆきあかり診療所では,「なんでも相談できる地域のかかりつけ診療所をめざします」という理念のもと,赤ちゃんからお年寄りまであらゆる健康問題に対応する総合診療を実践しています.毎日40〜50人程度の患者を診察し,診察の合間を縫って在宅医療などの外回り仕事を行うという,慌ただしくも充実した毎日を過ごしています. 真冬の往診風景です.車の高さ以上の雪が降ることはそう珍しいことではありません. 開所して2年が経ち,私もこの地域のことがいくらかわかるようになり,それが診療にも活かせるようになってきました.春になるとワルファリンがみるみる効かなくなってくる人が複数出てくること(春の山菜を食べている),雪が降ってくると雪堀りが忙しくなって腰が痛くなること(魚沼では豪雪の影響か雪かきではなく雪掘りと言う),それでも雪掘りのおかげで糖尿病のコントロールはよくなること(むしろ低血糖に注意が必要),冬になると民宿業が忙しくて病院に来る暇がなくなること(バブル期は冬の収入だけで十分に暮らせたらしい)などなど.地域の暮らしに合わせた診療を行うこともとても大切であると日々実感しています. プライマリケアとして大切な要素の1つにaccountability(責任性)という言葉があります.石打地区には医療機関が少ないため,石打地区の多くの方がゆきあかり診療所をかかりつけとして定期通院されています.他に医療機関が少ないということは,この地域の医療は自分達,診療所スタッフにかかっていると言っても過言ではないかもしれません.たとえ病気を見逃して重病になったりしても,患者さんはまた石打にあるゆきあかり診療所に帰ってきます.自分達しかいない.逃げられない.この地域に医師は自分だけです.しかし,まだまだ未熟者の自分をこの地域の人たちは頼ってくれます.石打の皆さんの期待に応えるために日々努力する.いわゆる地域・へき地医療ならではのこの責任は,とても大きく感じますが,その分のやりがいは計り知れません.責任が人を育てるとはよく言ったものですが,私もこの地域に育てていただいていると思います.日々感謝を忘れず,また明日から目の前の患者さんに全力投球です.