家庭医療後期研修の現場から 丸山淳也(岡山家庭医療センター/津山ファミリークリニック) レジデントノート2016年10月号掲載 [SHARE] ツイート 今後の社会情勢を踏まえ新しい専門医として総合診療専門医が誕生する予定ですが,私は同様のコンセプトで行われている家庭医療後期研修の専攻医です.皆さんは家庭医の診療を覗いたことはありますか? 家庭医の外来 家庭医療後期研修の専攻医は各科専門研修と診療所・中小病院での総合診療の研修を行います.なかでも外来診療は大きなウェイトを占め病棟診療とは全く別物です.診療所の外来は小児から高齢者まで幅広く,訴えの多様性もさることながら,たとえ「咳が出ます」といっても「咳で眠れないのでなんとかしてほしい」のか,「父の死因の肺癌の前兆だったらどうしよう」という不安など,受診に至る背景はさまざまです.それぞれ原因を明らかにし対応することは必要ですが,納得のいく形で外来を終えるためには求められる対応は変わってきます.薬の処方以外にも話を聞くだけで「疑問点が解決し安心しました」と言われることもあります. このような外来を行うには疾患の知識も整理しつつ,さまざまな主訴へのアプローチ法,相手と関係性を築き受診動機を探るコミュニケーション能力など多様な能力を同時に行うことが求められます.また,受診時には病気を疑うのに必要な情報が揃っていなかったり,疑っても検査ができない状況もあり,そのような場面でどう対応するかという方針決定も求められます.疾患の治療方針だけでなく,そこに至る「思考プロセス」や「感情の変化」まで指導医と日々振り返り,次に同じ場面になった時はどうするかを考え,必要な力を磨く毎日です. 外来以外の多様な役割 外来で診療中の筆者.小児の来院時には家族のケアもしっかりしています. 家庭医は訪問診療や救急の場でも活躍しています.患者さんのお宅や施設を定期的に訪問し体調の変化を確認することも大事な役割です.訪問診療では外来と違う時間の流れのなか,その人の趣味の話や昔の話で盛り上がることも時にはあります.さまざまな背景の患者さんの生活を支えるには単に「高齢者を診る力」以外に訪問看護師などの他職種の役割を理解し連携をとる必要があります. また,家庭医は現在病気をもつ人だけでなく,1,000人の住人がいればその全員を対象にします.さまざまな健康問題を抱える人は多く,健康への関心をもってもらうために外来での喫煙,飲酒の話題提供以外に地域や学校などでの健康教室などの勉強会の開催も行います. 後期研修の実際 家庭医の後期研修は実際に多くの症例に触れ自らの経験を振り返り,背景にある家庭医療的な理論と自らアプローチした方法を比べ,自らのレベルアップを図り,よりよい医療を提供していく研修だと感じます.求められる力は多様ですが,セミナーなど学習の機会も増えています.学んだ一つ一つが患者さんや地域の問題解決につながるときに大きな喜びを感じます.一緒に地域に求められる医師をめざしてみませんか?