専門医部会フォーラム2016 森 冬人(福島県立医科大学 地域・家庭医療学講座,只見町国民健康保険朝日診療所) レジデントノート2017年1月号掲載 [SHARE] ツイート 2016年10月22・23日,専門医部会フォーラム2016(日本プライマリ・ケア連合学会主催)が東京で開催された. メイン企画ではカナダの医療から超高齢化社会における家庭医の役割を考えるシンポジウムが行われた.Western大学のMoira Stewart先生は「超高齢化社会における患者中心の医療の方法」について講演された.皆さんは「患者中心の医療の方法」にどんなイメージをもつだろうか.病院の玄関にあるスローガンを想像する人もいるだろう.患者中心の医療の方法(Patient-Centered Clinical Method)とは,実はStewart先生のチームが創造した医療面接等で使用される実践的な方法論だ.この方法に関してこれまでにさまざまな研究が行われ,患者の健康アウトカムの改善や,医療費を減らすことが明らかになっている.そして高齢者によくある多重罹患の問題の解決策にもなる.例えば複数の疾患をもつ患者において,各ガイドラインが逆の推奨をすることも稀ではない.このような複雑な場合でも「患者中心の医療の方法」を実践する医師は患者全体を理解し重視すべき点を考えることができる.日常診療で出会いそうな患者を例示しながら,超高齢化社会を迎える日本でも有用な方法であると強調された. 2016年に新しく家庭医療専門医を取得した先生方の歓迎の様子. 次にToronto大学のPauline Parise先生はプライマリ・ケアの統合の取り組みについて講演された.カナダでは多くの家庭医が活躍しているが,外来や時間外の受診の待ち時間が長く,医療へのアクセスが課題になっている.解決策としてSCOPEという取り組みがある.家庭医が患者のケアに困難を感じた際にワンストップの窓口で多職種連携を支援する制度だ. 例えば入院や時間外の受診をくり返す複数の疾患をもつ高齢男性がいる.この制度を介して診療所や救急受診の情報を共有し,家庭医・内科医・薬剤師・ソーシャルワーカー・リハビリ専門職等が解決策を話し合う.内服薬の調整や地域のサービスを準備するといった解決策だ.カナダの一部ではこのプライマリ・ケアを統合する取り組みが成果を上げている.この制度では病院内の多職種がTV会議を通して支援しているが,日本でそのまま導入するには課題もあるだろう.プライマリ・ケアや在宅診療に精通している人材と連携するなら,病院外の多職種を巻き込んだチームでも質のよい支援ができるかもしれない.会場でも日本ではどのような活動や制度を構築すべきか活発に議論された. メイン企画の他にも,生涯学習,若手医師の活動,研究,そしてキャリア支援をテーマにした企画が行われた.家庭医療専門医の取得はスタートに過ぎない.改めて家庭医療のやりがいを実感し,全国の家庭医療専門医と共に学び続ける意欲が沸いた2日間となった.