日本の家庭医がタンザニアに行ったら 弓野 綾〔公益社団法人 日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)〕 レジデントノート2018年11月号掲載 所属はレジデントノート掲載当時のものです レジデントノート2019年2月号掲載 所属はレジデントノート掲載当時のものです [SHARE] ツイート 皆さんこんにちは.私は2015年から3年間JOCSというNGOに所属し,アフリカの東海岸にあるタンザニアという国の地方の病院と保健事務所で,医師として活動していました.JOCSはJapan Overseas Christian Medical Cooperative Serviceという団体名の頭文字をとった略称です. タンザニアに派遣されるまで 私は大学卒業後,神奈川県川崎市で8年間家庭医をしていました.京浜工業地帯のなかにあるので,在日外国人の工場労働者や家族を診察する機会が多くありました.彼らが病気になる時,そこに深くかかわっている生活背景がもっと知りたくなり,フィリピンの方の多い教会で行われていた在日外国人健康相談に参加しました.私もキリスト教徒なので,そのつながりで,フィリピンのネグロス島の無医村の教会で行われる健康相談のボランティアに誘われました.活動内容は日本での仕事と似ていました.これをきっかけに,私は家庭医としてキリスト教団体で国際医療協力がしたいと思い,帰国後にJOCSに志願しました.2012年に家庭医療専門医取得後,2013年に2カ月間フィリピンへボランティアに行き,2014年に熱帯医学をタイで半年学び,2015年4月の派遣を迎えました. 派遣地の医療事情 2015年から,タンザニアの都市部から800km離れたタボラ州にある,JOCSの協力団体のタボラ大司教区保健事務所(TAHO)に派遣されました.タボラ州へは日本から飛行機を乗り継いで2日ほどかけて行きます.タボラ州は停電,断水も多く,また人口10万人当たりの医師の数は日本の100分の1程度で,タンザニア全26州で25番目の低水準です. 活動内容とやりがい マラリアについての巡回視察(スーパービジョン)風景 活動内容はTAHO傘下の聖アンナ・ミッション病院での診療と,TAHOの活動の支援でした.病院でよくある病気(マラリア,下痢症など) の診療を支援し,またタボラに慢性疾患(高血圧,糖尿病,心不全など)の患者さんが継続してよい治療を受けられる仕組みがなかったので,慢性疾患外来を立ち上げました.3年の間に,私の任期終了後も現地の医療スタッフが自力で外来を継続できるように仕組みを整えて,医療技術を伝えるよう努めました.TAHOでは,管轄する法人内の10の病院・診療所などの診療を改善するために、診療統計作成や,巡回視察,職員研修会の開催を支援しました.日本での家庭医としての学びは,科を問わずに患者さんの治療にかかわる時,病気の背景を地域の経済・文化・政治状況と関連付けて考える時,また慢性疾患外来の仕組みを現地スタッフと協力してつくり上げていく時に,活かすことができました.少しずつスタッフや患者さんの行動が変わり,タボラの医療状況の改善に多少なりとも貢献できたと感じた時,家庭医として国際協力に携わる喜びを感じました.