実験医学 2013年10月号 Vol.31 No.16

フレミングが夢見た染色体の核心

コンデンシン・コヒーシンの発見から16年

  • 平野達也/企画
  • 2013年09月20日発行
  • B5判
  • 137ページ
  • ISBN 978-4-7581-0120-2
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

染色体の構築と分離は,遺伝情報を次世代へ継承するために必須の過程である.これらの過程で中心的な役割を果たす2つのタンパク質複合体―コンデンシンとコヒーシン―が発見・命名されてから16年が経過した.以来,体細胞分裂と減数分裂における染色体動態の理解が飛躍的に深まったばかりでなく,コンデンシンとコヒーシンがもつきわめて多彩な機能が次々と明らかになりつつある.本特集では,モデル生物からはじまった基礎研究がさまざまな疾患の研究へとつながっている染色体ダイナミクス分野の最前線をとりあげる.

生物の基本原理として古来より科学者の興味を惹きつけてきた染色体分配.この精妙な機構を担う双子タンパク質の活躍と,転写制御・ヒト疾患や老化への関与など,分裂期を超えた最新のトピックを紹介.

目次

特集

フレミングが夢見た染色体の核心
コンデンシン・コヒーシンの発見から16年
企画/平野達也
概論─コンデンシンとコヒーシン【平野達也】
染色体の構築と分離は,遺伝情報を次世代へ継承するために必須の過程である.これらの過程で中心的な役割を果たす2つのタンパク質複合体―コンデンシンとコヒーシン―が発見・命名されてから16年が経過した.以来,体細胞分裂と減数分裂における染色体動態の理解が飛躍的に深まったばかりでなく,コンデンシンとコヒーシンがもつきわめて多彩な機能が次々と明らかになりつつある.本特集では,モデル生物からはじまった基礎研究がさまざまな疾患の研究へとつながっている染色体ダイナミクス分野の最前線をとりあげる.
細菌のコンデンシンと染色体分配機構の進化【仁木宏典】
コンデンシンは真核生物だけでなく,細菌にも存在する.その構造は両者で類似している.コイルドコイル状のATPアーゼ活性をもつSMCタンパク質の二量体と2つの非SMCタンパク質からなる複合体を形成するのである.細菌の染色体分配は,真核細胞と比べ空間的にも非常に狭い細胞内で複製したDNAを2つに仕分けする過程である.そのため,コンデンシンによるDNAの凝縮は特に重要な過程である.細菌には少なくても2つのタイプのコンデンシン複合体が存在する.枯草菌型のSmc-ScpAB複合体と,大腸菌とその近縁種に保存されるMukBEF複合体である.両複合体とも,染色体の特定の箇所に集まり染色体凝縮の中心を形成し機能する.
コンデンシンによるゲノムの組織化とエピジェネティクス【野間健一】
ゲノムプロジェクトの進展に伴い,高等真核生物を含む多くの生物種の全ゲノム配列が決定された.ゲノム上に分布する遺伝情報は,遺伝子座間の三次元的な相互作用ネットワークにより組織化されている.最近の研究から,このゲノムの組織化が転写を含むさまざまな核内活性と密接にかかわっていることが明らかとなった.コンデンシンとコヒーシン複合体は,ゲノムの組織化を介して,染色体分配,転写制御,DNA修復を含むさまざまな分子機構に関与する.加えて,これら複合体によるゲノムの組織化は,エピジェネティックなメカニズムによって制御されている.
コヒーシン制御の破綻を伴う発生疾患【白髭克彦/泉 幸佑/古俣麻希子/加藤由起/中戸隆一郎/坂東優篤】
cohesinopathy(コヒーシン病)は,姉妹染色分体接着因子(コヒーシン)とその制御因子により生じる遺伝性疾患の総称である.そのなかでもっとも有名な疾患はCdLS(Cornelia de Lange syndrome)であろう.この疾患は出生1万人あたり1人程度の有病率と推測されており,多岐にわたる発生異常が特徴である.コヒーシン複合体は染色体分配に必須の役割を果たすが,コヒーシン病はこの染色体分配以外の機能異常が原因と考えられている.本稿では,コヒーシン病の分子メカニズムについて考察する.
染色体安定性の鍵を握る反復配列の維持機構【小林武彦】
ゲノムの安定性は染色体上どこでも同じではなく,安定な「舗装された道」と,不安定な「未舗装な道」とがある.「未舗装な道」は脆弱部位とよばれ寸断(切断)や通行する車(転写や複製)の障害となりやすく,ゲノム全体の安定性の足を引っ張る存在となる.反復配列は異常な高次構造をとりやすいため「未舗装な道」に分類される.なかでもリボソームRNA反復遺伝子(rDNA)は最大級の長さを誇り,その安定性はゲノム全体の安定性をも左右する.本総説ではリボソームRNA遺伝子の安定性維持機構とその破綻がひき起こす細胞老化について最近の知見を交えて紹介する.
減数分裂特異的コヒーシンと染色体異数性疾患【石黒啓一郎/渡邊嘉典】
ダウン症を含むトリソミーや流産などでみられる染色体異数性を考えた場合,減数分裂時の染色体分配エラーがどのような分子メカニズムの欠陥によるものかを理解することは重要である.減数分裂期においてコヒーシン複合体は姉妹染色分体接着のみならず,この時期に特有の染色体構造の変換にも重要な機能を果たしている.本稿では近年高等動物で明らかにされた研究成果を中心に,コヒーシン複合体の減数分裂期の染色体構造形成における主要な役割について述べる.さらに,加齢卵細胞におけるコヒーシン複合体の疲弊による姉妹染色分体接着破綻のメカニズムと染色体異数性疾患との関連について述べる.
分裂期を超えたコンデンシンⅡの多彩な役割【小野教夫/西出賢次/平野達也】
多くの真核細胞が有する2つのコンデンシン複合体のうち,コンデンシンⅠが分裂期に大きな役割をもっているのに対して,コンデンシンⅡは間期核におけるクロマチン高次構造の制御にも貢献している.最近の研究によれば,コンデンシンⅡはS期のうちから複製直後の姉妹染色分体の分割を開始して,分裂期への準備を整えている.一方で,細胞種特異的なコンデンシンⅡの制御メカニズムが存在し,間期クロマチンの構造的・機能的多様性に貢献しているらしい.このようなコンデンシンⅡの機能の破綻はさまざまな疾患に関与している可能性がある.

Update Review

インフルエンザ治療薬最前線 ―PD1のRNA核外輸送を介したウイルス増殖の抑制【今井由美子/久場敬司】

特別記事 Rasがん遺伝子発見物語 [前編]

がんウイルスのRas遺伝子とその起源の発見への茨の道【土田信夫】

トピックス

カレントトピックス
局所的カルシウムシグナルによる樹状突起の選択的除去メカニズム【金森崇浩/榎本和生】
歯槽膿漏―口腔内常在細菌のNod1刺激から破骨へ【焦 義祖/猪原直弘】
アディポネクチンによる骨量制御【梶村大介/Gerard Karsenty】
RNA編集酵素ADAR1のRNAi促進機能【櫻井雅之/太田博允/西倉和子】

連載

クローズアップ実験法
挿入的クロマチン免疫沈降法 (iChIP) による特定ゲノム領域結合分子の網羅的同定【藤田敏次/藤井穂高】
帰ってきたプロフェッショナル根性論
自分がやるべき問題を見つけるには【島岡 要/安田涼平】
創発生物学への誘い ―神秘のベールに隠された生命らしさに挑む
多細胞社会に見る自己組織化:眼杯などの自己組織化を例に【笹井芳樹】
教えて!エコ実験 ―工夫&節約のメリハリ研究術
エコ細胞培養【村田茂穂】
私のメンター ~受け継がれる研究の心~
Diane Mathis ―コンプリートストーリーを紡ぎだす免疫学者【宮崎 徹】
ラボレポート ―留学編―
環境を変え,起こす自分のブレークスルー ―Harvard School of Dental Medicine/University Medical Center Hamburg Eppendorf【齋藤広章】
Opinion ―研究の現場から
大学生はリッチガール&ボーイ!? ―教育格差問題への対応策【山元孝佳/松原惇高】

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