●総合診療医 × 非がん疾患の緩和ケア = 次世代のケアモデル
(前略)
諸外国をはじめ,日本でも“緩和ケア=がん”というイメージが強く,非がん疾患の緩和ケアはあまり注目されてきませんでした.しかし,2014年度の日本の死亡統計によるとがんによる死亡は全体の28.9%であり,70%以上ががん以外で亡くなっていることがわかります.
(中略)
非がん疾患において,緩和ケアが普及していない理由としては,予後予測が難しいこと,例え苦痛や症状があっても,どのような介入・ケアが有効であるか明確なエビデンスがないことなどが考えられます.そして,諸外国の研究では,総合診療医は緩和ケアを提供する際に「先を見越したコミュニケーションをするタイミングがわからない」,「緩和ケアニーズを評価する知識,技術がない」と感じていることが明らかになっています.これらの研究結果から,非がん患者においては,緩和ケアの必要性が認識されにくく,また,認識されていても具体的なアクションに移せない現状が想像されます.
このようななか,非がん疾患の緩和ケアにおいて重要な役割を果たしている総合診療医からは,「非がん患者への緩和ケアを実践しているつもりだけど,本当にこれでよいのか?」,「もっとよい対応やケアはないのか?」という声を聞くことが増えてきました.
そこで,本特集では,非がん疾患の緩和ケアに関する総論的なことに加えて,第一線で活躍されている先生方に総合診療の現場で困っていること,意外と知られていないことなどをさまざまな事例に基づいて解説していただきました.非がん疾患の緩和ケアにかかわる総合診療医に知っておいてほしい緩和ケアの導入について説明し,日常診療でよくある認知症やCOPD,そして慢性心不全のケースや,在宅の現場で必ず遭遇する神経難病のケースに活用できるTipsなどを多く盛り込みました.明日から役立つ「現場力」を高めていただけることを期待しています.
がんだけじゃない!認知症やCOPD,肝硬変など非がん患者さんにも必要な緩和ケア.いつ介入すべきか?QOLを改善できるか?患者・家族の気持ちに寄りそうには?ケースごとの最適なケアを考えるために必携の1冊
本特集号を手にして最初の感想は,「まさにこれだ,ありがたい」のひと言であった.本特集では,これまであまり焦点が当てられてこなかったにもかかわらず,実は臨床の現場で多くの総合診療医がその対応に難渋していた非がん疾患の緩和ケアというテーマを,具体的ケースをあげて明解に解説してくれている.
がん患者の緩和ケアに関する情報はかなり充実してきており,総合診療医のスキルは上がってきているように思う.しかしながら,総合診療医の特に外来診療ではがん疾患を抱えた患者さんよりも非がん疾患を抱えた虚弱高齢者の頻度の方が圧倒的に多い.そしてそのケアに難渋することが多い.それにもかかわらず,そのための適切なケアの方法を具体的に教えてくれるテキストはこれまでほとんど見当たらなかった.それを真正面から取り上げてくれたのが本特集号である.
認知症が進み家族がその対応に苦慮して疲弊してきたとき,COPDを代表とする呼吸器疾患が進行し呼吸困難が強くなってきたとき,慢性心不全の急性増悪をくり返し徐々に消耗してきたとき,パーキンソン病の発症から10数年経ってADLが低下するとともに薬剤のさまざまな副作用に悩まされるとき,脳梗塞後に嚥下障害を合併し誤嚥性肺炎をくり返しながら徐々に衰弱していくとき,ALSの在宅診療を開始しついには人工呼吸器を導入しなければならなくなったとき,腎不全が進行し全身状態が悪化していくばかりの超高齢患者さんとその家族と向き合うとき,肝硬変が進行し腹水や脳症のコントロールが困難になってきたとき.これらのうちいずれかの状況にこれまで一度も遭遇したことのない総合診療医はおそらくいないだろう.
このような状況にある患者さんの身体的苦痛をどのようにして和らげるかが重要なことはもちろんのことであるが,これから待ち受ける終末期についてどのように患者さんとその家族とコミュニケーションをとっていくのがよいのか,そして精神的苦痛をどのように和らげていくのがよいのだろうか.非がん患者さんの緩和ケアには,がん患者さんの緩和ケアと同様に,あるいはもしかするとそれよりもより多くの難しい課題があるかもしれない.われわれはこれまでその課題を見過ごしてきただけなのかもしれない.
illness trajectory(病の軌跡)の3つのパターンを見据えて,その時々に合わせて適切に患者・家族を評価し,適切なコミュニケーションを含めた緩和ケアを提供する.本特集によって多くの総合診療医が非がん疾患を抱えた患者さんの緩和ケアに精通し,患者さんとその家族のさまざまな苦悩を和らげ,より豊かな人生を送ることができるよう支えていくことができるようになるのは間違いないであろう.
宮田靖志(国立病院機構 名古屋医療センター 卒後教育研修センター/総合内科)
「非がんの緩和ケアって大切なのはよくわかるけれど,実際のところ何をしたらいいの?」「非がん患者さんの終末期はよく診ているけれど,非がんとがんで緩和ケアってどう違うの? 日常のケアを見直してみたい!」そんな総合診療医や緩和ケア医の声にダイレクトに答える本が出たなぁというのが実感です.
私は現在,緩和ケアを専門としておりますが,総合診療をバックグラウンドとしており,今までも,そしてこれからも,疾患を問わず緩和ケアを実践することを個人の,大学診療科の,そして研修医教育のモットーとしています.
そもそも緩和ケアに必要な能力とは,「総合診療医としての能力+がん緩和ケアを専門的に実践する能力」であると言っても言い過ぎではないと思っています.がん緩和ケア医が総合診療を学べば,そして総合診療医ががん緩和ケアを学んだら鬼に金棒で,疾患を問わず生命の危機に瀕する患者・家族に対して必要な緩和ケアを提供することが可能です.特に,総合診療医が緩和ケアを学んでそれを提供することで,緩和ケアのニーズの大部分はカバーすることが可能です.これを緩和ケアの世界ではPrimary Palliative Careと呼んでいます.
このように総合診療,家庭医療を志す医師にとって緩和ケアの能力は必要不可欠なものであり,この特集「できていますか? 非がん疾患の緩和ケア」はそのintroductionとして最適だと感じました.Common diseaseのよくある症例から,緩和ケアの大切な要素や疾患特異的な問題を考えられるように構成され,緩和ケアに興味をもち,実践している第一線の総合診療医が執筆を担当しています.緩和ケアを志す医師や看護師にとっても,がん緩和ケアとの共通点や違いを見つけながら楽しく学べる構成になっています.また,最初から通読しないで途中から拾い読みしても楽しむことができ,出張のお供にも最適だと感じました.
前述の通り,本書は総合診療医,緩和ケアを志す医師・看護師が非がんの緩和ケアについて学びはじめるのにぴったりな1冊だと感じました.編集された筑波大学の浜野 淳 先生の見識と努力に感謝し最大の賛辞を送りたいと思います.
木澤義之(神戸大学大学院 医学研究科内科系講座 先端医療緩和医療学分野 特命教授)
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(2021年8月23日)
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