サイモン&ガーファンクルの往年の名曲「サウンド・オブ・サイレンス」は,タイトルを文字通り捉えると「無音のなかの音」ということで一見不思議なタイトルである.分子生物学における「サイレント」と言えば,同義コドンでの変異のためにタンパク質のアミノ酸配列には変化がない,いわゆる「サイレント変異」であろう.このサイレント変異がタンパク質の高次構造,ひいてはさまざまな生命現象に影響を与えうるということがわかってきた.
アミノ酸配列さえ決まればタンパク質の立体構造は一義に決定する,というのがタンパク質科学の大前提(Anfinsenのドグマ)である.よって,アミノ酸配列に影響を及ぼさない同義置換でタンパク質自体が変化を受けるはずがない,というのが従来の常識であった.実際,同義置換によって変化を受けるのはmRNAの2次構造やtRNAのレアコドンといったRNA側の問題で,結果として翻訳抑制が生じるというようなことは知られていた.しかし,最近になって同義置換によるコドンの選択により,翻訳に共役したタンパク質フォールディングが影響を受け,できあがってくるタンパク質そのものに差異が出てくるらしいという報告が続々と出てきている.
今回紹介する論文(Buhr F, et al:Mol Cell, 61:341-351, 2016)では,
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