近年のニューロサイエンス分野では,遺伝子の発現プロファイルを利用することで古典的な分類を越えてニューロンを細分化し,それぞれの特異的な機能を調べる研究がさかんである.ここで紹介するのは,呼吸制御の中枢である脳幹のプレベツィンガー複合体という領域のなかに,覚醒と沈静(興奮した状態と落ちついた状態)のバランスといった高次脳機能を制御するニューロンを発見したという報告である(Yackle K, et al:Science, 355:1411-1415, 2017).呼吸は,単に酸素をとり入れ二酸化炭素を排出するための運動にとどまらず,心身の機能に大きな影響をもつことが古来から認識されており,仏教の禅や,ヨーガ,武術などにおいても呼吸法の重要さが説かれている.しかし,呼吸が高次脳機能に影響を与えるメカニズムの報告はあまりされてこなかった.
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