今回は海外での生活における重要な要素の一つ,食に関する情報を紹介する.本稿では,筆者らの北米およびヨーロッパにおいての経験と,友人らの意見をもとに,海外での日本食材に関する内を中心にまとめた.これから留学を考えている読者にとっては,研究以外では,食が海外生活の大きな不安要因だと思う.そんな方に,食事情の具体的なイメージが伝われば幸いである.
最近では,海外でも日本食材を購入できる店や日本食を食べられる場所が増えてきている.ロサンゼルスやサンフランシスコ,ロンドンなど日系企業が多く集まる都市には日本人街があり,日系のスーパーマーケットや日本食のレストランが充実している.研究者が多く集まるニューヨークやボストンでは,日本人街はないものの,日本人が多く留学していることから中国系・韓国系のスーパーマーケットで日本の食材や調味料を多数取り扱っている.基本的に日本での価格よりも2〜4倍ほど高いものの,多くの日本の食材(調味料,レトルト食品,菓子類,乾燥食品,飲みものなど)が購入できる.
日本人の少ない町の場合は千差万別だが,町の大きさとアジア系の住民の数などにより手に入るもののバリエーションが変わってくる.小さい町の韓国系・中国系の食材店などでも日本の食材を見かけることは珍しくないが,購入できるものの種類は限られることが多い.そのため,北米に留学している人からは,数週間に一度,車で日系のスーパーマーケットがある大きな町まで買い出しに行くという話をよく聞く.また,共同でオンラインサイトから日本食材を購入している人たちもいる.そうすることで,送料が安く抑えられるそうだ.ヨーロッパでは,一部の都市(ロンドンやデュッセルドルフなど)を除いて,北米よりも日本の食材が手に入りにくい印象だ.それでも,イギリス,オランダ,スウェーデンの中・小規模の町に留学していた人の経験では,現地のスーパーマーケットでも醤油が売られていることがよくあり,アジア系の食材店やオンラインサイトで日本酒,みりん風調味料,麺類,のり,豆腐などを購入できたとのこと.一部の食材は,日本からの海外発送サービスを利用して購入することもできるが,関税がかかることがあるそうだ.規模の小さいアジア系の食材店や輸入食材店の情報は,口コミで得られるものが一番信頼できるが,Googleやyelpで検索することによりある程度の情報を集めることもできる.
ある程度日本食材を購入できる地域では,日本食を提供しているレストランも多い.寿司,ラーメン,うどん,そば,焼肉,とんかつ,定食屋や居酒屋まで多岐にわたる.日本人が経営している店や日本のチェーン店であれば味の保証はされているが,創作系の店も多く,それが日本食かどうかという部分では好みが別れる.また,海外の友人たちは寿司に興味をもっている人が多く,ホームパーティなどで,ちらし寿司や手巻き寿司などを出すと喜ばれる.日本米(短粒種)はアジア系のスーパーマーケットや輸入食材店などで購入できることが多い.
経験的に注意すべき点は,日本では当たり前のように生食していた食材でも,海外では慎重になる必要がある.海外で一般的に売られている鶏卵は,食中毒の危険性があるため生で食べることができない.また,生食と書かれた海鮮食材も品質がまちまちなので,店の雰囲気などを見極めて購入することをお勧めする.傷がついたり,すでに開封されている品物が陳列されていることも珍しくないので,注意深く品定めをしたほうがよい.
海外で生活する場合,その土地の生活様式に順応しようという姿勢が不可欠であるが,生まれ育った日本の料理が懐かしくなるというのもまた自然な気持ちである.海外渡航前には,食を含め生活にかかわる情報を集めておくと,留学のスタートがスムーズになるはずだ.