現在,システム神経科学の分野ではちょっとした革命が起きている.これまでこの分野の潮流としては,行動中の動物から神経活動を記録してそれらが行動にかかわるどのような情報を「表現」しているのかを同定していくという研究が主流であった.例えば,空間上のターゲットに手を伸ばすという単純な運動制御を考えた場合でも「ターゲットの位置を感覚情報から同定する」「手の軌道を計画する」「三次元空間から関節次元空間に変換する」「必要な関節トルクや筋活動を推定する」といった一連の過程が必要である.そこで運動制御の神経メカニズムを明らかにするためにこれらの過程の変数が大脳皮質のどこで「表現」されているのかがさかんに調べられてきた.しかしこの40年近い研究の結果としてわかってきたことが,運動出力の座である一次運動野のニューロンですら何か特定の変数を表現しているわけではないという「不都合な真実」であった.
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