本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)
研究者にとって自身の研究成果を魅力的に伝えることは,実際の研究と同じくらい重要だと考えている.魅力を端的にわかりやすく伝えるうえで,研究イラストがもつ影響力は絶大である.本稿では「研究イラストを自ら描く」意義深さについて感じていることを伝えたい.
昨年,博士課程での研究をまとめた論文を発表することができたが,原著論文およびプレスリリース等において,可能な限り自分自身でイラストを作成した.その研究に世界一思い入れのある自分が描くことで,より一層強い説得力と熱意が込められると考えたからだ.
自分で思い描いたオリジナルのイラストを描写すると,作者の“色”が自然と出てくる.もちろん,その手のプロに有償で描いてもらうのもよい手段ではあるが,ここではあえて自作を推したい.
私が描いたイラストの一例を紹介する(本頁右上の図).私の研究は冬眠に関連し体温・代謝制御に焦点を当てたものである.体温をあらわす温度計や,熱産生(代謝率)をあらわす炎などは簡素化し,状態ごとに色を分け,違いを明確にした.混同しがちな睡眠と冬眠,麻酔との違いも強調した.すべては主役(ここでは左下のQIH)を際立たせるためである.マウスは自分が観たままの姿を描いた.現実にマウス個体が呈した姿勢を描くことによって説得力が増す.簡素化されたアイコンもより映える.
結果的に,自分オリジナルの作画によって研究のインパクトが増したものと考えている.実際,原著論文投稿時における編集者側の反応や,プレスリリースなどの成果報告で頂戴した多くの反響をかんがみるに,研究の意義や魅力が多くの方々に伝わったと感じている.
また,原著論文内のfigureにおいても念入りに描出すべきだと感じている.研究者として最も重要なことは,客観的なデータを見出し,論文を書くことである.しかし研究論文の軸となるのはfigureであり,そこには客観性とともに研究者としての熱量が反映されていると思う.実際,印象に残りやすいfigureは存在する.ランドマークとなる図があることによって,読者の記憶に残りやすい論文も多いのではないだろうか.
加えて,研究概要のイラストを自力で描くことは,研究者として成長できるチャンスの1つだと考えている.私の場合は,自身の研究の立ち位置をより客観視することができた.これまでの研究の限界や反省点にも気づかされた.強調するためにどこまで描いてよいのか,自分は何を成し遂げられたのか,自分の研究とは一体何だったのか,省みる絶好の機会だと思う.
図の作成には特に制約はない.だからこそ作者によって大きな違いが生み出されていると感じる.読者としての私も実際,熱量ある研究イラストはよく目に留まる.そして本文も自然に読んでしまう.
情報に溢れた現代社会で,一瞥しただけで魅力的に映る研究イラストは大きな武器となる.論文,総説,TwitterなどのSNSにおいてもそうである.私は,人々の目に留まり認知されるそのチャンスをできる限り逃したくない.
読者の皆さまも,原著論文のfigureも含め,研究のよりビジュアル的な魅せ方に力を入れてみてはいかがだろうか.
髙橋 徹※(筑波大学医学医療系/ 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-ⅢS)櫻井/平野研究室)
※実験医学2021年4月号より転載