めざせ実験の達人-トラブル回避のコツと最新キットで極める!
  • [SHARE]
  • Send to Facebook
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
めざせウエスタンブロッティングの達人
はじめに

転写の概要とポイント

実験手法の概要

転写とは,タンパク質サンプルをSDS-PAGEなどの電気泳動にて分離したのち,分離されたタンパク質をメンブレン(膜)へと電気的に移すことを言う.転写方法には,タンク式とセミドライ式がある(表1)が,近年はセミドライ式が一般的である.また,近年では短時間で効率よく転写できる専用の装置も市販されている.使用するメンブレンはニトロセルロースメンブレンやPVDFメンブレンが一般的である(表2).転写後のメンブレンは引き続いてウエスタンブロッティングやシークエンス解析,タンパク質染色などに使用される.転写後のゲルも転写効率の確認のために染色することもある.

表1.タンク式とセミドライ式の特徴
タンク式ブロッティング セミドライ式ブロッティング
使用する転写バッファー量 多い(約300~500 mL程度) 少なくて済む(約100 mL以下)
発熱 タンク内の転写バッファーにて冷却されるので発熱量は少ない
アイスバッグなどを用いて冷却しながら泳動することが多い
やや発熱するが通常は特に温度調節の必要はない
転写時間 長時間必要(通常4時間以上) 短時間(2時間以内)
転写ムラなど 比較的均一な転写が期待できる 転写ムラは起こりやすい
表2.転写膜の比較
ニトロセルロースメンブレン PVDFメンブレン
性質 親水性 疎水性
強度 弱い(ちぎれやすい) 強い
タンパク質保持力 100 μg/cm2程度 250 μg/cm2程度
値段 安価 やや高価
その他の特徴など タンパク質溶液を弾かないのでドットブロットには使いやすい
サポート付きのものは強度が強い
水を弾くので使用前にメタノール等にて前処理(親水処理)の必要あり

実験手法の流れ

  1. 電気泳動(SDS-PAGE)
  2. ゲルやメンブレン,ろ紙の転写バッファーへの平衡化
  3. 転写板・転写装置に2で用意した一式をセット
  4. 電流を流しゲル内のタンパク質をメンブレンへ電気的に転写
  5. 転写されたメンブレンをウエスタンブロッティングなどの解析へ

ココがポイント

転写で最も多いトラブルは転写ムラです.特にこれは,定量的なウエスタンブロッティングを行う際には致命的となるでしょう.しかし,セミドライブロッティングでは転写ムラは頻発します.転写後のメンブレンやゲルを染色・確認したり,端のレーンを使わないなどの注意が必要です.

また,目的の実験に適した転写用メンブレンの選択も重要です.各社,タンパク質の高結合性や強度,タンパク質の保持力,自家蛍光の低いものなど多様なメンブレンを販売しています.目的,用途,値段などをみて使い分けましょう.

近年,短時間で転写できる専用の装置が開発・市販されていますが,これらは,短時間で転写可能なだけでなく,転写効率も高く,転写ムラもほとんど起こらないため,定量的なウエスタンブロッティングには強力なツールとなります.

ウエスタンブロッティングのQ&A一覧へQ1 転写できてる?

TOP

プロフィール

森山先生
森山 達哉(Tatsuya Moriyama)
京都大学農学部食品工学科卒.同大学院農学研究科修士課程,博士課程ののち,京都大学食糧科学研究所助手 等を経て2005年に近畿大学農学部講師,2008年准教授.その間,1996年米国スタンフォード大学招聘研究員(1年間).毎日多くの元気な学生たちと一緒に,食品成分の生理機能性(特に脂質代謝への影響)と安全性(特にアレルゲン性)に関する研究を行っている.基礎研究だけでなく,社会の役に立つ「アウトプット」を意識した研究を進めています.
<著作>
サイドメニュー開く