転写とは,タンパク質サンプルをSDS-PAGEなどの電気泳動にて分離したのち,分離されたタンパク質をメンブレン(膜)へと電気的に移すことを言う.転写方法には,タンク式とセミドライ式がある(表1)が,近年はセミドライ式が一般的である.また,近年では短時間で効率よく転写できる専用の装置も市販されている.使用するメンブレンはニトロセルロースメンブレンやPVDFメンブレンが一般的である(表2).転写後のメンブレンは引き続いてウエスタンブロッティングやシークエンス解析,タンパク質染色などに使用される.転写後のゲルも転写効率の確認のために染色することもある.
タンク式ブロッティング | セミドライ式ブロッティング | |
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使用する転写バッファー量 | 多い(約300~500 mL程度) | 少なくて済む(約100 mL以下) |
発熱 | タンク内の転写バッファーにて冷却されるので発熱量は少ない アイスバッグなどを用いて冷却しながら泳動することが多い |
やや発熱するが通常は特に温度調節の必要はない |
転写時間 | 長時間必要(通常4時間以上) | 短時間(2時間以内) |
転写ムラなど | 比較的均一な転写が期待できる | 転写ムラは起こりやすい |
ニトロセルロースメンブレン | PVDFメンブレン | |
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性質 | 親水性 | 疎水性 |
強度 | 弱い(ちぎれやすい) | 強い |
タンパク質保持力 | 100 μg/cm2程度 | 250 μg/cm2程度 |
値段 | 安価 | やや高価 |
その他の特徴など | タンパク質溶液を弾かないのでドットブロットには使いやすい サポート付きのものは強度が強い |
水を弾くので使用前にメタノール等にて前処理(親水処理)の必要あり |
転写で最も多いトラブルは転写ムラです.特にこれは,定量的なウエスタンブロッティングを行う際には致命的となるでしょう.しかし,セミドライブロッティングでは転写ムラは頻発します.転写後のメンブレンやゲルを染色・確認したり,端のレーンを使わないなどの注意が必要です.
また,目的の実験に適した転写用メンブレンの選択も重要です.各社,タンパク質の高結合性や強度,タンパク質の保持力,自家蛍光の低いものなど多様なメンブレンを販売しています.目的,用途,値段などをみて使い分けましょう.
近年,短時間で転写できる専用の装置が開発・市販されていますが,これらは,短時間で転写可能なだけでなく,転写効率も高く,転写ムラもほとんど起こらないため,定量的なウエスタンブロッティングには強力なツールとなります.