実験医学 2016年11月号 Vol.34 No.18

見えてきた予防・根治の可能性 アレルギー新時代

IgE発見から50年を迎えて

  • 中尾篤人/企画
  • 2016年10月20日発行
  • B5判
  • 139ページ
  • ISBN 978-4-7581-0157-8
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

現在全国に6千万人,ほぼ2人に1人の日本人が花粉症や喘息,食物アレルギー,アトピー性皮膚炎などの何らかのアレルギーをもつと言われている.1966年の石坂博士によるIgEの発見から現在まで50年,この間,アレルギー研究は大きく進展し「Ⅰ型アレルギー」,「Th2 細胞性炎症」,「バリア機能破綻」の3つの概念をコアとしてアレルギー疾患の大枠は理解されつつある.近年,この進化にもとづく新たな「予防」・「治療」法が小児アレルギー,喘息,花粉症に導入され臨床現場は新しい時代を迎えている.この変革期の期待と興奮を本特集から感じてほしい.

日本人の約半数が患っていると言われるアレルギー疾患.皮膚感作,細菌叢との関連,バリア機能の破綻などアレルギー発症機序の根幹に迫る研究から,真の治癒をめざした新療法の開発動向までご紹介します!

目次

特集

見えてきた予防・根治の可能性 アレルギー新時代
IgE発見から50年を迎えて
企画/中尾篤人
概論ーアレルギー克服への期待と興奮ーIgE発見から50年後の果実【中尾篤人】
現在全国に6千万人,ほぼ2人に1人の日本人が花粉症や喘息,食物アレルギー,アトピー性皮膚炎などの何らかのアレルギーをもつと言われている.1966年の石坂博士によるIgEの発見から現在まで50年,この間,アレルギー研究は大きく進展し「Ⅰ型アレルギー」,「Th2 細胞性炎症」,「バリア機能破綻」の3つの概念をコアとしてアレルギー疾患の大枠は理解されつつある.近年,この進化にもとづく新たな「予防」・「治療」法が小児アレルギー,喘息,花粉症に導入され臨床現場は新しい時代を迎えている.この変革期の期待と興奮を本特集から感じてほしい.
アレルギー疾患の発症予防と経皮感作【福家辰樹,大矢幸弘】
かつて試みられた妊娠授乳中の母親の食物制限は推奨されないことに加え,近年の大規模介入研究により離乳食においてアレルギー性の高い食品の摂取時期を遅らせることは食物アレルギーの発症予防につながらないことが世界的なコンセンサスとともに強く提唱された.また,感作予防についていまだ十分なエビデンスがないものの,乳児期早期からの保湿スキンケアによるアトピー性皮膚炎の発症予防効果が報告され,皮膚バリア機能障害を早期に修復することは後の感作,さらにはアレルギーマーチの予防につながる可能性が期待されている.
アトピー性皮膚炎発症と皮膚バリア破綻【吉田尚弘】
先進国の乳幼児の10%以上に認められるアトピー性皮膚炎の発症メカニズムを明らかにするため,われわれは遺伝子変異を導入したマウスのなかからヒトのアトピー性皮膚炎とよく似た経過で発症する突然変異マウスを確立し,Spadeマウスと名付けた.Spadeマウスの遺伝子変異はシグナル伝達分子JAK1に活性亢進型のアミノ酸点変異をもたらすもので,それにより皮膚炎発症前からのセリンプロテアーゼの発現亢進が起こり,皮膚バリア機能が低下していた.このマウスモデルの皮膚炎発症メカニズムの解析により,アトピー性皮膚炎の根本的な予防と治療方法が確立できることを期待する.
喘息研究・医療における新たな潮流ートランスレーショナルリサーチからプレシジョン・メディシンに向けて【出原賢治,太田昭一郎,布村 聡,小川雅弘,南里康弘】
基礎研究の発展を基盤として,喘息を含めたアレルギー性炎症における2型炎症反応の重要性が明らかとなった.この研究成果を受けてトランスレーショナルリサーチが花開き,数多くの喘息に対する分子標的薬が開発された.一方で,分子標的薬に対する反応においてマウスとヒトとの間に乖離が生じ,喘息患者を病態に基づいてサブグループ化して治療方針を決定する層別化医療の必要性が指摘されている.この流れはプレシジョン・メディシンの1つとして捉えられており,今後喘息におけるプレシジョン・メディシンの実現が期待されている.
花粉症と概日時計ー「モーニングアタック」のメカニズム【中尾篤人,中村勇規】
花粉症などアレルギー性鼻炎では,くしゃみや鼻水などの症状が早朝に頻発・悪化する「モーニングアタック」という現象があり,それにより多くの人が良質な睡眠を妨げられ,QOL(quality of life)を損なっている.しかしその現象の詳しいメカニズムは明らかになっていなかった.近年,われわれはIgE刺激によるマスト細胞の脱顆粒反応(Ⅰ型アレルギー)が生理活動の日内リズムを司る「概日時計」によって強く制御を受けていることを明らかにした.マスト細胞の概日時計はⅠ型アレルギーを日中(活動期)より夜間(休息期)に強くなるよう“調整”している.このしくみが「モーニングアタック」を生む基盤の1つと考えられる.
腸内細菌とアレルギーとのかかわり【長谷耕二】
腸内細菌の定着は,腸管関連リンパ組織を成熟させ,IgA産生を促し,Th17細胞の分化を誘導するなど宿主免疫システムの成熟に必須である.さらに,腸内細菌は上皮バリア機能を高めてアレルゲンの侵入を抑制し,炎症やアレルギー反応の抑制にかかわる制御性T(Treg)細胞を誘導する.腸内細菌叢の構成異常は小児アレルギー患者において観察される.このような研究背景から,アレルギー感受性に影響を与える環境因子として,現在,腸内細菌が大きな注目を集めている.本稿では,アレルギーの発症と腸内細菌に関する最新の研究を紹介する.
【アレルゲン免疫療法の新展開①】スギ花粉症における舌下免疫療法ー国民病であるスギ花粉症は根治できるのか?【土井-大橋 雅津代】
日本の国民病とされるスギ花粉症への治療は,薬物療法が主流であり,それはアレルギー症状に対する対症療法でしかない.一方,アレルゲン免疫療法は,症状の治癒あるいは長期寛解を期待できる唯一のアレルギー疾患の自然経過を変えうる治療法とされている.本邦初の舌下免疫療法薬として2014年に誕生したシダトレンは,スギ花粉症を根治できる新薬として,非常に期待されている.
【アレルゲン免疫療法の新展開②】食物アレルギーの経口免疫療法【栗原和幸】
従来,食物アレルギーの患者に対しての指導は「除去」と「緊急対応」の2点しかなく,治療するという概念は存在しなかった.近年,食物アレルギーの発症の機序に関して,経皮感作と経口免疫寛容という概念が導入され,これまでとは大きく異なる対応が考えられるようになってきた.また,食物アレルギーを治療する試みとして経口免疫療法の成績が集積しつつあり,この分野における新規の治療法の確立が期待されている.その歴史と現状,そして今後の可能性を簡潔に紹介する.
IgEはいかにして発見されたのかー第65回 日本アレルギー学会学術大会 IgE発見50周年記念シンポジウム【斎藤博久】
News & Hot Paper Digest
細胞の中で紡錘体に働いている力を直接測定する【木村 暁】
コネクトームが示す種特異的な神経接続戦略【米原圭祐】
膜をもたない核小体が多層構造を形成できるしくみ【古久保哲朗】
ミトコンドリアを介した抗腫瘍免疫の制御【茶本健司】
臨床試験における患者個人データはどのように共有されるべきか?【MSA Partners】
カレントトピックス
PD-L1 3′-UTR異常による,悪性腫瘍が免疫を回避するための新たな遺伝学的メカニズム【片岡圭亮】
生細胞で翻訳の過程をリアルタイムで可視化,定量する技術の開発【森崎達也,Timothy J. Stasevich】
ミクログリア特異的BK チャネルの活性化がモルヒネ誘発性痛覚過敏を引き起こす【林 良憲,中西 博】
精子と卵の結合の構造基盤の解明【大戸梅治,清水敏之】
Update Review
抗体試薬の特異性に関する課題と展望【服部峰充,小出昌平】
Next Tech Review
【第1回】イメージング質量分析によるステロイドホルモンの分布可視化【杉浦悠毅,東 達也,新間秀一,西本紘嗣郎,末松 誠】
クローズアップ実験法
HEK293T細胞を用いたリコンビナントタンパク質精製【山下暁朗】
挑戦する人
人の交流を生み出し研究と医療を進める!【今井美沙】
Campus & Conference 探訪記
ノーベルフォーラムと小胞体ストレス応答と森和俊博士とーNobel Forum:“Unfolded proteins: from basic to bedside” 【吉田秀郎】
いま、がんのクリニカルシークエンスがおもしろい!
cfDNAによる遺伝子変異検出の臨床応用へ向けたデジタルPCR技術【坂井和子,西尾和人】
予防医学の扉を開く 食品に秘められたサイエンス
味覚を変えてしまうタンパク質の謎ー酸っぱいものが甘くなる?【三坂 巧】
私の実験動物、個性派です!
ヤツメウナギで解き明かす進化の謎ー脊椎動物の祖先形を探る【日下部 りえ】
ラボレポート独立編
ロンドンのいち研究所の研究文化ーMRC Clinical Sciences Centre, Imperial College London【平林 享】
Opinion
研究に大切なのは「努力できる環境」である【新井郷子】

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