レジデントノート:精神科研修のエッセンスがまるごとわかる〜医療面接の基本や精神症状への対応など、どの科でも必ず役立つ基本事項を身につけよう!
レジデントノート 2021年1月号 Vol.22 No.15

精神科研修のエッセンスがまるごとわかる

医療面接の基本や精神症状への対応など、どの科でも必ず役立つ基本事項を身につけよう!

  • 西村勝治/編
  • 2020年12月10日発行
  • B5判
  • 170ページ
  • ISBN 978-4-7581-1655-8
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり

特集にあたって

特集にあたって

西村勝治
(東京女子医科大学医学部 精神医学講座)

精神科教育の見直し

わが国ではここ数年,医学教育制度の大規模な見直しが行われました.1つは卒前教育で,医学生を対象とした「医学教育モデル・コア・カリキュラム」の改訂(2017年)です.もう1つは卒後教育であり,初期研修医を対象とした「医師臨床研修指導ガイドライン」の改訂(2020年)になります.両者は連動したものであり,医師の育成が卒前から卒後にかけてシームレスかつ整合性をもったプロセスで行われるように配慮されています.

精神科は,どちらの見直しにおいても,これまで以上に重視される結果になりました.医学生の精神科臨床実習は少なくとも4週間に延長され,初期臨床研修では精神科での研修が再必修化されました.

高まる精神科へのニーズ

医学教育におけるこうした精神科重視の流れは,社会からの精神科へのニーズが大きく変化したからにほかなりません.かつての精神科は,統合失調症や双極性障害などを中心とした重い精神疾患の治療を行っている閉鎖的で特殊な診療科というイメージがありました.しかし近年,精神疾患は決して特殊な疾患ではないこと,重症ばかりではなく広く軽症の精神疾患に対する治療も重要であることが,社会にも医療関係者にも認知されるようになりました.2011年には,それまでの4疾病(がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病)に加え,精神疾患が医療政策の重要な対象となったことで,精神疾患は国民に広くかかわるものとして明確に位置づけられました.

まさに国民病として広く社会に認知されたのが,産業領域において増加したうつ病です.特にバブル経済崩壊以後,年間3万人を超えるまで自殺者数が急増し,過労によるうつ病が注目されたことで,誰もが罹りうるストレス関連疾患として国民の意識にしっかりと刻み込まれました.しかも,これらの患者さんが受診するのは精神科ではなく,体調不良を理由に受診する内科であることが圧倒的に多いとわかり,内科医にうつ病の初期対応が求められるようになったのです.また高齢化に伴い,認知症が増加していることも国民が精神医療に目を向けるきっかけとなりました.認知症に伴う行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)を含めた対応も精神科医ばかりでなく,内科医にも求められるようになりました.

身体疾患と精神疾患の関係

さらに,がんや心筋梗塞,糖尿病などの身体疾患と精神疾患はこれまで考えられていた以上に密接に関係していることがわかってきました.身体疾患の患者さんにもうつ病をはじめとする精神疾患が高い頻度で合併していて患者さんのQOLを低下させること,さらには身体疾患の発症・増悪の危険因子となり,その予後を悪化させることも知られるようになりました.このため,例えば米国心臓協会(American Heart Association:AHA)は2008年に循環器内科医に対して,うつ病をスクリーニングし,適切にマネジメントすることを推奨したほどです.つまり,内科的なマネジメントに加えて,精神的側面にも配慮することによって患者アウトカムを最大化できることが示唆されたわけです.

このような背景から,精神疾患はただ精神科医に任せればよいのではなく,精神科以外の診療科においても適切な対応(頻度の高い症候・病態について,適切な臨床推論プロセスを経た基本的な診たて,鑑別診断,初期治療,精神科への紹介など)が求められる時代になりました.

こころの健康なくして健康なし

「こころの健康なくして健康なし(No health without mental health)」は2005年にWHOが掲げたスローガンです.初期研修医の皆さんにはまさにこのスローガンを実践できる臨床家をぜひめざしてほしいと思います.

これまで多くの先生方から「精神科は敷居が高くて難しい」という声をお聞きしました.本特集では,初期研修で習得すべき精神科のエッセンスを臨床と教育の第一線でご活躍の先生方にわかりやすく解説していただきました.これから精神科研修をはじめる初期研修医の皆さんはもちろんのこと,指導医の先生方にとっても1つの指針として利用していただけるものと確信しています.

著者プロフィール

西村勝治 Katsuji Nishimura
東京女子医科大学医学部 精神医学講座
コンサルテーション・リエゾン精神医学を専門にしています.これまで様々な診療科,特に膠原病,臓器移植,循環器などの領域の先生方と協働して診療,研究を行ってきました.

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