実験医学 2018年6月号 Vol.36 No.9

がんは免疫系をいかに抑制するのか

免疫チェックポイント阻害剤の真の標的を求めて

  • 西川博嘉/企画
  • 2018年05月18日発行
  • B5判
  • 139ページ
  • ISBN 978-4-7581-2508-6
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり
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《企画者のことば》

近年,外科的切除・化学療法・放射線療法といったがん自体を標的とする治療と異なり,宿主の免疫系を活性化することでがん細胞を攻撃,駆逐するがん免疫療法が注目を集めている.とりわけ免疫チェックポイント阻害剤とよばれるCTLA-4やPD-1といった免疫共抑制分子(免疫チェックポイント分子)に対するブロッキング抗体が多くのがん種に対して国内外で臨床応用が進んでいる.免疫チェックポイント阻害剤の臨床応用により,がんがさまざまな免疫抑制機構により免疫系からの攻撃を逃避していることが明らかになってきた.ここでは,本特集でとり上げるがんがもつ免疫抑制機構の研究および今後の臨床展開について概略を述べる.

西川博嘉(国立がん研究センター研究所)

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企画者メッセージ

がんと免疫のデッドヒートはどこまで解明されたのか?抵抗性・併用療法のメカニズムから,免疫チェックポイント分子の進化的な意味まで、がん免疫療法の真の標的を追う!

目次
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特集

がんは免疫系をいかに抑制するのか
免疫チェックポイント阻害剤の真の標的を求めて
企画/西川博嘉
近年,外科的切除・化学療法・放射線療法といったがん自体を標的とする治療と異なり,宿主の免疫系を活性化することでがん細胞を攻撃,駆逐するがん免疫療法が注目を集めている.とりわけ免疫チェックポイント阻害剤とよばれるCTLA-4やPD-1といった免疫共抑制分子(免疫チェックポイント分子)に対するブロッキング抗体が多くのがん種に対して国内外で臨床応用が進んでいる.免疫チェックポイント阻害剤の臨床応用により,がんがさまざまな免疫抑制機構により免疫系からの攻撃を逃避していることが明らかになってきた.ここでは,本特集でとり上げるがんがもつ免疫抑制機構の研究および今後の臨床展開について概略を述べる.
がん微小環境において,がん細胞は多様な機序により抗腫瘍免疫から逃避する.また免疫はがんの増殖浸潤を促進する場合もある.がん微小環境の免疫病態は,がん種,同じがんでもサブタイプごと,さらに症例ごとに異なり,さまざまながん治療の効果に関係する.がん免疫病態の個人差の原因として,がん細胞の遺伝子異常の違い,遺伝子多型に規定される患者の免疫体質,さらにさまざまな環境因子が関与する.がん微小環境の免疫病態の理解は,がんに対する理想的な個別化治療の開発につながる.
すべてはここから始まった,CTLA-4【横須賀 忠,若松 英, 古畑昌枝,豊田博子,秦 喜久美,矢那瀬紀子,町山裕亮】
エフェクターT細胞と制御性T細胞,活性型受容体と抑制性受容体など,免疫系は正と負のバランスのうえに成り立っている.抑制性副刺激受容体CTLA-4には,ホスファターゼではない独自の細胞内シグナル伝達経路があり,活性型受容体CD28への拮抗阻害を介した内在性のT細胞抑制機能がある.また制御性T細胞によるトランスエンドサイトーシスやトロゴサイトーシスを介したCTLA-4による外因性の抑制機構もわかってきた.抗CTLA-4抗体療法の分子メカニズムを理解し進展の鍵となるような,この2つの免疫制御機構に関して紹介する.
最近のがん治療の研究により,活性化されたTリンパ球(T細胞)上に発現が誘導されるPD-1分子の機能を抗体で阻害すると,がん細胞中のゲノム変異に起因するネオ抗原への免疫応答が有意に回復することがわかった.このことは,裏を返せば,がん患者の体内では,PD-1によってゲノム変異由来抗原への免疫応答が強く抑制されていることを意味する.では,一体なぜ,PD-1はがん細胞に対する特異的な免疫応答を抑制しなければならないのだろうか?
制御性T細胞(Treg)は自己免疫寛容を成立させるとともに過剰な免疫応答を抑制することで生体の恒常性維持に重要な役割を担っている.しかし,がん局所へのTregの浸潤が予後不良と相関すること,Treg除去は抗腫瘍免疫応答が惹起されることなどから,抗腫瘍免疫応答の抑制機構の一つにTregがあげられる.一部の効果的ながん免疫療法によりTregが除去され自己免疫が起こり,この自己免疫をコントロールするためにステロイドが用いられている.過剰に抑制が阻害されることによる弊害を免疫抑制で補うといった矛盾.これまで詳細に検討がなされていなかった“がん免疫療法とステロイド投与”の関係についての知見を報告する.
TAM・MDSCによる免疫抑制機構【吉永正憲,竹内 理】
マクロファージや単球,好中球は自然免疫系の中核を担う細胞群である.腫瘍内にはこれらの細胞が多く浸潤しているが,それらが存在しても免疫系の活性化にはつながらず,腫瘍排除に寄与するどころか,むしろ腫瘍増殖を助長する役割を果たす.本稿ではこのような腫瘍免疫を阻害する腫瘍随伴マクロファージ(TAM)や骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)とよばれる細胞群の起源や性質,またその免疫抑制機構について,これまでの知見を概説する.
抗原特異的T細胞の機能維持・長期生存は,がん免疫療法の奏功の鍵を握る.T細胞の分化や機能制御に,細胞内エネルギー代謝が重要な役割を担うことがわかってきた.しかしがん局所のT細胞はがん細胞との代謝競合や種々の免疫抑制機序により,活性に必要なエネルギー量を確保できず,代謝疲弊に陥っている.われわれの研究室ではT細胞の代謝改善薬の併用がPD-1阻害抗体療法の治療効果を向上することを見出した.本稿ではがんの代謝特性による免疫抑制機構および,代謝制御によるT細胞応答増強のコンセプトについて解説する.
がん免疫療法の1つであるPD-1/PD-L1やCTLA-4といった免疫チェックポイントを標的とした薬剤は多くのがんで効果が証明されているが,その効果は満足のいくものでなく,全く無効で副作用だけが出てしまうような症例も存在し,効果予測バイオマーカーやより効果を高める治療方法が求められている.より効果の高い治療をめざして世界中では「狂騒曲」のようにがん免疫療法の開発競争がなされており,細胞傷害性抗がん剤との併用,他の免疫チェックポイントを標的にしたような薬剤や免疫抑制性細胞を標的とした薬剤などが注目されている.しかし,生物学的,特に免疫学的な裏づけに伴うような層別化なしで開発を行うことに限界が生じつつあり,今後は生物学的な特性に基づくような,新しい治療戦略が必要である.

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