実験医学 2018年9月号 Vol.36 No.14

疾患を制御するマクロファージの多様性

マクロファージを狙う治療戦略の序章

  • 佐藤 荘/企画
  • 2018年08月20日発行
  • B5判
  • 139ページ
  • ISBN 978-4-7581-2511-6
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり
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《企画者のことば》

最近,免疫学の大きなトピックの1つとしてマクロファージが挙げられる.phagocyteは無脊椎動物において異物を貪食する細胞としてMetchnikoffによって発見され,そのなかから単核のものを“マクロファージ”と名付けた.当初は,体内に侵入した異物やごみを処理するしか仕事をしない細胞だと思われており,免疫学でもスポットライトの当たらない補欠の細胞であった.しかし,近年のM1・M2のコンセプトから,最近のマクロファージサブタイプ(亜種)の研究が徐々に増えつつあり,2011年からはPubMedでの“macrophage”でヒットする論文は毎年10,000を超え続けている.長年スポットライトの当たっていなかったマクロファージ研究は,今まさにNEON GENESIS(新世紀)を迎え,その“序”の章がスタートした.本稿では,前半にてマクロファージの分化や種類の多様性について,そして後半では最近のさまざまなマクロファージ研究のテーマのなかでも,“疾患”との関係にフォーカスを当て概説する.

佐藤 荘 (大阪大学微生物病研究所)

特集の概論を読む

近年,組織特異的なマクロファージの発見が相次ぎ,それぞれの機能や疾患との関連が明かされはじめています.治療標的として期待されるマクロファージの「多様性」に迫る最新研究をご紹介します.

目次
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特集

疾患を制御するマクロファージの多様性
マクロファージを狙う治療戦略の序章
企画/佐藤 荘
最近,免疫学の大きなトピックの1つとしてマクロファージが挙げられる.phagocyteは無脊椎動物において異物を貪食する細胞としてMetchnikoffによって発見され,そのなかから単核のものを“マクロファージ”と名付けた.当初は,体内に侵入した異物やごみを処理するしか仕事をしない細胞だと思われており,免疫学でもスポットライトの当たらない補欠の細胞であった.しかし,近年のM1・M2のコンセプトから,最近のマクロファージサブタイプ(亜種)の研究が徐々に増えつつあり,2011年からはPubMedでの“macrophage”でヒットする論文は毎年10,000を超え続けている.長年スポットライトの当たっていなかったマクロファージ研究は,今まさにNEON GENESIS(新世紀)を迎え,その“序”の章がスタートした.本稿では,前半にてマクロファージの分化や種類の多様性について,そして後半では最近のさまざまなマクロファージ研究のテーマのなかでも,“疾患”との関係にフォーカスを当て概説する.
皮膚とマクロファージ【中溝 聡,江川形平,椛島健治】
皮膚は生体を外界と隔てる最大の臓器であり,病原微生物や抗原などに常にさらされている.そのため,皮膚にはさまざまな免疫細胞が存在しており,それぞれの細胞が相互作用することで,外来抗原に対応した皮膚炎反応が誘導される.マクロファージは死細胞やその破片,体内に生じた変性物質や侵入した細菌などの異物を捕食して消化し,いわば清掃屋の役割を果たす.また,捕食した抗原を主要組織適合遺伝子複合体上に提示する抗原提示細胞でもある.皮膚疾患においては各種皮膚感染症,異物の侵入による肉芽腫形成において重要な役割を担うが,近年,炎症性疾患の病態形成においても重要な役割を果たすことが明らかになった.本稿では,古典的な皮膚炎である接触皮膚炎に対するマクロファージの働きを中心に述べる.
神経がダメージを受けた後に,慢性的な痛み「神経障害性疼痛」が発症する.この慢性疼痛は,単なる急性疼痛の持続ではなく,神経系の多種多様な構造・機能的変化がもたらす神経活動異常に起因すると考えられている.その異常に,損傷した末梢神経に浸潤・集積するマクロファージと,脊髄後角で活性化する中枢神経常在性マクロファージであるミクログリアが重要な役割を担うことが基礎研究より示され,慢性疼痛のメカニズムの解明と治療薬の開発にこれらの細胞が大きな注目を集めている.
神経変性疾患におけるミクログリア病態・神経炎症【祖父江 顕,遠藤史人,山中宏二】
中枢神経系におけるマクロファージ様細胞として知られるミクログリアは中枢神経系の環境を監視し,正常脳では神経回路の恒常性維持などに重要な役割を担っている.正常時でのミクログリアは細胞体が小型で多くの細長い突起を伸ばした形態をしているが,活性化すると細胞体が肥大し突起を短縮した形態に変わり細胞外タンパク質や異物の貪食,サイトカインなどの液性因子の産生放出を引き起こす.これら活性化ミクログリアには神経傷害型(M1)と神経保護型(M2)などの分類があり,その活性調節が中枢神経系疾患の病態進行に深く関与することが報告され,治療薬開発における有望な標的細胞として注目されている.
近年,各組織に局在するマクロファージが,病原体の排除だけではなく,定常状態の組織の恒常性維持に機能することが明らかとなった.マウスおよびヒト腸管組織において,マクロファージの分化機構と多様な免疫応答制御機構の解明が進み,腸管マクロファージによる免疫寛容誘導の破綻がクローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患(IBD)の発症および病態に深く関与することが明らかになりつつある.今後,マクロファージによる腸管恒常性維持機構のさらなる解明が,IBDの新規治療法確立につながることが期待される
転写因子Mafによる腸管マクロファージの形質制御【菊池健太,浅野謙一,田中正人】
組織常在マクロファージは,常在する組織によってさまざまな形質を有し,生体の恒常性維持に重要な役割を担うことがわかっている.しかし,その形質制御機構の全容はいまだ解明されていない.現在,多様な組織マクロファージの形質を解明するために,細胞特異的な転写因子を同定する研究がさかんに行われている.われわれは最近の研究で,転写因子Mafが腸管マクロファージに高発現し,その形質を制御することを見出した.さらに,腸炎の進展に伴って,Mafの発現量が変化し,腸管マクロファージの炎症促進的形質から組織保護的形質に転換することを明らかにした.そこで本稿では,腸管マクロファージの形質と,その形質制御機構について紹介する
100年以上前に発見されたマクロファージは,発見以来最近まで体内には1種類しかないと考えられてきた.しかし近年のさまざまな研究から,疾患の発症にかかわるさまざまなマクロファージサブタイプが存在する可能性が考えられはじめている.今回,われわれは免疫学の解析手法に加え,バイオインフォマティクスの技術,およびイメージングの技術を用いて,線維症の発症にかかわるマクロファージの新しいサブタイプを同定し,その分化メカニズムの研究を行ったので,今回報告する.
脂質はエネルギー源や生体膜成分という役割に加え,生体内でシグナル分子として機能する.これら脂質の三大機能は生体内の脂質代謝バランスにより制御されており,これらがマクロファージの分化や機能制御とも密接に関与することがしだいに明らかになりつつある.本稿では特に,脂肪酸バランスの変化がマクロファージに及ぼす影響について,さらに特定の脂肪酸代謝酵素を発現するユニークなマクロファージ集団の機能的役割について,最近の知見を紹介する

連載

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リアルタイムにドーパミン動態を可視化!【後藤弘子,宮道和成】
改良養子免疫細胞療法の絶大な効果ー転移性末期乳がんが完全消失【柏木 哲】
タンパク質の相分離が長期記憶を形成する分子機構【黒川理樹】
肝細胞の分化転換による新たな胆管系の構築【沖 嘉尚】
米「未承認薬を試す権利法」成立とその実施の難しさ【MSA Partners】
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渇きの神経科学:知覚・情報処理・行動の統御【蛭子はるか,市木貴子,岡 勇輝】
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DREADDsを用いた自由行動下の動物における神経活動操作【犬束 歩,山中章弘】
創薬に懸ける~日本発シーズ、咲くや?咲かざるや?
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  • 【本書名】実験医学:疾患を制御するマクロファージの多様性〜マクロファージを狙う治療戦略の序章
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