90歳代男性. 既往に大動脈弁閉鎖不全症(大動脈弁置換術後).ADLはおおむね良好で,日常生活は自立している.1週間前からの咳嗽,喀痰を主訴に来院した.来院時のバイタルは体温37.8℃,血圧148/80 mmHg,脈拍 85回/分,SpO2 96%(室内気),呼吸数 20回/分で,意識は清明であった.両側下肺野に水泡音を認めた.血液検査ではWBC 11,200/μL,BUN 13 mg/dL,クレアチニン0.73 mg/dLであった.胸部X線において,両側下肺野に浸潤影を認めたため,肺炎を疑い喀痰グラム染色を施行したところ, 図のような顕微鏡所見が得られた. ⓑアモキシシリン・クラブラン酸1回500 mgまたは125 mg1日3回,ⓒセフトリアキソン1回2 g,24時間ごと点滴静注,ⓓST合剤(バクタ®配合錠)1回2錠,1日2回 市中肺炎でのグラム染色の有用性 本症例では喀痰グラム染色の結果,紅色に染まるソラマメ状の形態を呈した双球菌が観察されました(図).原因微生物は感染のフォーカスによりある程度限定することができます.細菌性肺炎のグラム染色で観察できる代表的な原因微生物としては肺炎球菌,インフルエンザ桿菌,Moraxella catarrhalisがありますが,グラム染色の結果グラム陰性球菌が観察されたことから,本症例の原因微生物はM. catarrhalisであると推測されます. 1)肺炎におけるグラム染色の使い方 喀痰グラム染色を解釈するには,まず良質な喀痰が提出されていることが条件です.広く用いられている喀痰の質の基準としてGeckler分類(表1)がありますが,顕微鏡検査に値するのは好中球が多く含まれ,口腔内の扁平上皮細胞の少ないgroup 4または5の喀痰です.良質な喀痰をとるためには,採取前に口腔ケアを施行したり,喀出が困難な患者さんには,3%高張食塩水を吸入させて喀痰を誘発するなどの工夫をします. 2)どれぐらい役に立つ? 喀痰グラム染色は簡便で,かつ短時間で結果が得られることから,肺炎の初期対応において,抗菌薬選択の参考とするために用いられます.有用性についてはこれまでの研究でも意見がわかれるところですが,良質な喀痰が得られればとても参考になります.市中肺炎を対象としたグラム染色の有用性を検討したメタアナリシス1)では,原因微生物ごとに感度,特異度を算出していますが(表2),感度が菌種によりさまざまであるものの,特異度は比較的高くなっています.また市中肺炎と施設関連肺炎の両者を対象とした前向き観察研究2)において,施設関連肺炎では全体的に感度が劣るものの,特異度は市中肺炎同様に高く,本症例のように特徴的な形態を示す細菌が多くみられれば,高い確率で原因微生物であると推定できます.初期対応における原因微生物推定には十分役に立つでしょう. 3)治療 原因微生物が推定できれば,それに合わせて抗菌薬を選択します.本症例のようにM. catarrhalisであれば,一般的にペニシリン系に対して耐性を示すので,βラクタマーゼ阻害薬を加えたペニシリンやセフェム系抗菌薬(例:アモキシシリン・クラブラン酸,セフトリアキソン)で治療します.ST合剤やマクロライド系抗菌薬が使用されることもあります. 引用文献 Del Rio-Pertuz G, et al:Usefulness of sputum gram stain for etiologic diagnosis in community-acquired pneumonia: a systematic review and meta-analysis. BMC Infect Dis, 19:403, 2019 ↑市中肺炎における喀痰グラム染色についてのメタアナリシス. (2021/04/05公開) 戻る この"ドリル"の掲載書をご紹介します 抗菌薬ドリル 実践編臨床現場で必要な力が試される 感染症の「リアル」問題集 羽田野義郎/編 定価:3,960円(本体3,600円+税) 在庫:あり 月刊レジデントノート 最新号 次号案内 バックナンバー 連載一覧 掲載広告一覧 定期購読案内 定期購読WEB版サービス 定期購読申込状況 レジデントノート増刊 最新号 次号案内 バックナンバー 定期購読案内 residentnote @Yodosha_RN その他の羊土社のページ ウェブGノート 実験医学online 教科書・サブテキスト 広告出稿をお考えの方へ 広告出稿の案内