両下肺野に浸潤影を認めます.まずは市中肺炎を疑い胸部CTや喀痰検査を行います.
胸部単純X線写真では両側の下肺野に浸潤影があり,横隔膜が不明瞭となっている(図1◯).また右肺野にはまだらにすりガラス影がある(図1➡).胸部単純CT,大動脈弓のスライスでは,右S2および左S6にすりガラス影を認める(図2➡).肺底部のスライスでは,両側に広くすりガラス影が分布し,また浸潤影が気管支血管束に沿って(図3◯),あるいは胸膜に接して(図3➡)みられる.
詳細に身体所見をとりなおした結果,四肢近位部の筋力低下を認めた.CKが上昇している点から筋炎を疑い,血液検査で抗ARS抗体が陽性と判明したことから,抗ARS抗体陽性間質性肺炎と診断した.診断に至るまでの短期間に肺炎は急速に進行し,呼吸状態が悪化しハイフローセラピー開始となったが,強力なステロイド治療を開始した結果,画像所見・呼吸状態は一転,著明な改善を得た.
抗ARS抗体は,複数の筋炎特異的自己抗体の総称である.多発性筋炎/皮膚筋炎の25~42%で陽性となる1).これまでに抗Jo-1抗体など8種類の抗ARS抗体が報告されている.抗体陽性例は共通の臨床所見を有することから,筋炎のカテゴリーのなかで抗ARS抗体症候群としてほかと区別して称される.間質性肺炎の合併率が高く(70~90%),そのほか発熱や多関節炎,「機械工の手」と呼ばれる皮膚所見を合併することが多い1).診断に筋症状は必須ではなく,発症時に筋症状を伴わない場合もある.
抗ARS抗体陽性間質性肺炎の画像所見は,下葉優位のすりガラス影,浸潤影が特徴である.慢性の経過で進行する場合,網状影や気管支拡張,下葉の容積縮小などの線維化所見が主だが,本症例のような急性経過の場合には,下葉優位にすりガラス影,また気管支血管束周囲や胸膜直下に多発する浸潤影を認めることが多い2).一般的にステロイド治療への反応性がよく,抗ARS抗体陰性の多発性筋炎/皮膚炎と比較し長期予後は良好とされている1).ただし,ステロイド減量中の再燃例も多く,早期からほかの免疫抑制薬を併用することが推奨される.
抗ARS抗体陽性間質性肺炎は,膠原病に伴う間質性肺疾患のなかでも特徴的な画像所見や身体所見を有することから,当該疾患に関する基本的知識があれば比較的診断に至りやすい.急速進行例であってもステロイドへの反応性が期待できる疾患であり,早期発見,早期治療介入が重要である.