画像診断Q&A

レジデントノート 2024年10月号掲載
【解答・解説】年単位で進行する労作時呼吸困難で紹介となった30歳代男性

ある1年目の研修医の診断

両上肺野に浸潤影を認めます.慢性的な労作時呼吸困難や咳嗽が主訴なので,間質性肺炎を疑い胸部CTを追加します.

Answer

胸膜肺実質線維弾性症(pleuroparenchymal fibroelastosis:PPFE)

  • A1:胸部単純X線写真で両上肺野,右優位の透過性低下を認める.両側の肺門は挙上している(図1).
  • A2:慢性進行性の労作時呼吸困難,咳嗽があり,両上肺野に胸膜側優位の浸潤影,および収縮を認めることから,PPFEを考え胸部CTを追加する.

解説

胸部単純X線写真では両上肺野の透過性低下のほか,両肺門の挙上(図1)を認める.上葉の容積減少を示唆する所見である.胸部CTでは,両肺上葉の胸膜直下に浸潤影を認める(図2).一部の浸潤影は,内部に拡張した気管支透亮像を伴う(図2).上葉と比較して下葉は異常陰影が乏しい(図3).

血液検査では各種自己抗体は陰性であり,過敏性肺炎を疑う吸入歴や住環境歴はなかった.肺機能検査では拘束性換気障害を認め,残気率が113.5%と大幅に上昇していた.

上葉優位の病変分布や容積減少,呼吸器症状が経時的に悪化している点,呼吸機能検査での残気率上昇を認める点からPPFEと診断した.

PPFEは,両側上葉優位に臓側胸膜や胸膜下肺実質の線維化をきたす一群の疾患に近年付与された病名である.胸部単純X線写真では両肺尖部から上肺野にかけての胸膜肥厚が特徴的である.また,上肺野の容積減少が起こり,そのため両側肺門が挙上する.胸部CTでは上葉優位に胸膜肥厚や,胸膜直下,気管支血管束周囲の浸潤影を認める.下葉・肺底部にも線維化がみられることが多いが,上葉と比較して病変の分布は軽度である1).全身所見としては,進行すると胸郭の前後径が狭小化し扁平胸郭となり,食思不振,るい痩に至ることが多い.肺機能検査では,拘束性換気障害や拡散障害のほか,残気率の上昇を認める点が特徴的である.病理所見では臓側胸膜の肥厚,それに接する胸膜直下あるいは気管支血管束に沿った肺胞腔内の線維化や弾性線維の増生を特徴とする2)

PPFEはほかの間質性肺炎と異なる臨床的特徴をもち,その成立機序はしばしば不明である.特発性だけでなく,本症例のような化学療法の既往や,末梢血幹細胞移植後,サルコイドーシス,慢性過敏性肺炎など,二次性の要因が関与する例が少なからず存在する.既存の抗炎症薬や抗線維化薬に抵抗性を示すことが多く,確立された治療法がないことから予後は不良であり,長期的には肺移植も検討されうる.肺尖部の胸膜肥厚を認めた際は,定期的な経過観察によって進行の有無を確認する必要がある.

図1
図2
図3
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参考文献

  1. 「胸部のCT 第4版」(村田喜代史,他/編), pp488-492, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2018
  2. Chua F, et al:Pleuroparenchymal Fibroelastosis. A Review of Clinical, Radiological, and Pathological Characteristics. Ann Am Thorac Soc, 16:1351-1359, 2019(PMID:31425665)

プロフィール

井窪祐美子(Yumiko Ikubo)
JCHO東京山手メディカルセンター 呼吸器内科
徳田 均(Hitoshi Tokuda)
JCHO東京山手メディカルセンター 呼吸器内科
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