右下肺野で透過性が亢進していますが肺血管影は欠如していないため,気胸ではなく巨大ブラの存在が疑われます.
本症例は重喫煙歴のある肺気腫患者に巨大ブラが出現し,かかりつけ医より当科に紹介となった.胸部単純X線では,右肺全体で透過性の亢進がみられ特に右下肺野で顕著である.肺血管影は欠如しておらず,肺は外側に向かって凹である(図1➡).側面像で胸郭前後径が拡大して樽状胸郭となっている(図2)ことから,肺気腫により肺が過膨張となっていることがわかる.胸部単純CTでは,両肺に小葉中心性気腫性変化があり,右胸膜腔内に隔壁の薄い(厚さ1 mm以下)巨大な嚢胞を認める(図3).呼吸機能検査では,肺活量(VC)3.12 L,%VC 98.4%,努力性肺活量3.08 L,1秒量(FEV1)1.90 L,%FEV1 76.9%,1秒率(FEV1%)61.7%で軽度閉塞性換気障害を示した.短時間作用型β2刺激薬(SABA)吸入後もFEV1 1.94 L,変化量(変化率)+40 mL(+2.1%)で可逆性はなく,慢性閉塞性肺疾患(COPD)Ⅱ期と診断した1).現時点で症状はなく閉塞性換気障害も軽度であることから,禁煙指導を行ったうえでかかりつけ医での経過観察とした.
巨大ブラ(giant bullae)は片側胸腔の1/3以上を占める1 mm以下の薄い壁をもつ肺嚢胞である.気腫性変化により肺胞構造が破壊されて発生する.臨床上問題となるのは,自然気胸の原因となりうること,巨大ブラにより正常肺が圧排されて呼吸困難などの症状を呈しうること,ブラ壁からの発がんのリスクが正常肺の32倍であることである2,3).また,感染を生じることもある.通常,無症状のブラに対しては経過観察となるが,再発性の気胸,対側肺の気胸の既往,両側気胸,5〜7日のドレナージでもエアリークが持続する気胸,抗菌薬の反応性に乏しい感染性ブラ,ブラ内感染の反復などがあればブラ切除術の適応となる.
また,本症例はCOPD Ⅱ期と診断されるが,この診断はあくまで呼吸機能検査に基づくものであり,本症例のように多数のブラが存在してもそれらは閉塞性換気障害への影響が少なく,本症例にみられる軽度の閉塞性換気障害は主に小葉中心性肺気腫により生じていると考えられる.実際本症例は呼吸困難はなく,画像所見の派手さのみで安易に重症COPDと診断しないことも本画像からいえる重要なメッセージである.