画像診断Q&A

レジデントノート 2024年12月号掲載
【解答・解説】局所的なX線透過亢進がみられた70歳代男性

ある1年目の研修医の診断

右下肺野で透過性が亢進していますが肺血管影は欠如していないため,気胸ではなく巨大ブラの存在が疑われます.

Answer

巨大ブラを伴った肺気腫

  • A1:胸部単純X線では右肺全体で透過性の亢進を認め,特に右下肺野で顕著である.その部分にも肺血管影がみられ,肺は外側に向かって凹である(図1).縦隔偏位は認めない.側面で胸郭前後径が拡大して樽状胸郭となっている(図2).
  • A2:巨大ブラの評価のために胸部CT撮影を,閉塞性換気障害の評価のため呼吸機能検査を施行する.

解説

本症例は重喫煙歴のある肺気腫患者に巨大ブラが出現し,かかりつけ医より当科に紹介となった.胸部単純X線では,右肺全体で透過性の亢進がみられ特に右下肺野で顕著である.肺血管影は欠如しておらず,肺は外側に向かって凹である(図1).側面像で胸郭前後径が拡大して樽状胸郭となっている(図2)ことから,肺気腫により肺が過膨張となっていることがわかる.胸部単純CTでは,両肺に小葉中心性気腫性変化があり,右胸膜腔内に隔壁の薄い(厚さ1 mm以下)巨大な嚢胞を認める(図3).呼吸機能検査では,肺活量(VC)3.12 L,%VC 98.4%,努力性肺活量3.08 L,1秒量(FEV1)1.90 L,%FEV1 76.9%,1秒率(FEV1%)61.7%で軽度閉塞性換気障害を示した.短時間作用型β2刺激薬(SABA)吸入後もFEV1 1.94 L,変化量(変化率)+40 mL(+2.1%)で可逆性はなく,慢性閉塞性肺疾患(COPD)Ⅱ期と診断した1).現時点で症状はなく閉塞性換気障害も軽度であることから,禁煙指導を行ったうえでかかりつけ医での経過観察とした.

巨大ブラ(giant bullae)は片側胸腔の1/3以上を占める1 mm以下の薄い壁をもつ肺嚢胞である.気腫性変化により肺胞構造が破壊されて発生する.臨床上問題となるのは,自然気胸の原因となりうること,巨大ブラにより正常肺が圧排されて呼吸困難などの症状を呈しうること,ブラ壁からの発がんのリスクが正常肺の32倍であることである2,3).また,感染を生じることもある.通常,無症状のブラに対しては経過観察となるが,再発性の気胸,対側肺の気胸の既往,両側気胸,5〜7日のドレナージでもエアリークが持続する気胸,抗菌薬の反応性に乏しい感染性ブラ,ブラ内感染の反復などがあればブラ切除術の適応となる.

また,本症例はCOPD Ⅱ期と診断されるが,この診断はあくまで呼吸機能検査に基づくものであり,本症例のように多数のブラが存在してもそれらは閉塞性換気障害への影響が少なく,本症例にみられる軽度の閉塞性換気障害は主に小葉中心性肺気腫により生じていると考えられる.実際本症例は呼吸困難はなく,画像所見の派手さのみで安易に重症COPDと診断しないことも本画像からいえる重要なメッセージである.

図1
図2
図3
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引用文献

  1. 「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版」(日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会/編),p2,メディカルビュー社,2022
  2. 「新 呼吸器専門医テキスト 改訂第2版」(日本呼吸器学会/編),pp378-380,南江堂,2020
  3. Maki D, et al:Computed tomography appearances of bronchogenic carcinoma associated with bullous lung disease. J Comput Assist Tomogr, 30:447-452, 2006(PMID:16778620)

プロフィール

竹内亜衣(Ai Takeuchi)
福井大学医学部附属病院 呼吸器内科
早稲田優子(Yuko Waseda)
福井大学医学部附属病院 呼吸器内科
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