レジデントノートインタビューコーナー『あの先生に会いたい!』では,さまざまなフィールドでご活躍中の先生に,医師として歩んでこられた道のりや,現在,そして将来のこと,さらに私生活とのバランスの取り方などについて語っていただきます.また番外編では,本誌に収まりきらなかった内容をホームページ限定で紹介していきます.
名郷先生(以下敬称略):Family Physicianって,北米なんかだったら,40年というすごい歴史があって,もう古びて,がたがきてるようなしくみだからね.それを,日本で40年も50年も遅れてやりはじめて,どうなるの? ということも見方によってはあるよね.
小林先生(以下敬称略):なるほど.では,次に進むべき道は欧米にヒントがあるんですかね.
名郷:欧米にはない.アメリカの時代は終わったんじゃないかなあ.例えば,今から100年とか1,000年たったときに,「ああ,このぐらいの時点からアメリカの時代が終わっていくな」と言われる時代なんじゃないかなあ.この先どうなっていくんだろうね.
小林:ところで,医療以外のことで,何かやってやろうというようなことはあるんですか.
名郷:それはある.
小林:そうなんですね.少しお聞きしてもいいですか.
名郷:研修医にしろ,僕らにしろ,医療ということが生活の大半を占めているから,医者自身もそこからやっぱり抜け出そうという時代もいつか来ると思うんだよね.医学って長生きとか健康ということを目指すことが王道で,そこで進歩してきたじゃない? 例えば,日本なんか医療崩壊とか言われているけど,やっぱり世界で1番長寿の国だよね.周産期医療が崩壊していると言われつつ,そんな周産期死亡だって,世界で1位という状況で,先進国のなかでも良い方だよね.だから,本当は医療なんか全然崩壊してなくて,「別にこれでいいんじゃないかなあ.ちょっと医療より世の中の方がやばいんだな」と思うんだよ.そういう健康に対する欲求というのは,やっぱり相当レベルの高い欲求で,ある意味,とんちんかんな欲求になりやすいんだよね.今これ食わないと死んじゃうみたいなときに,15年後の脳卒中という発想は絶対にないわけで….だから今,食べるものに困るという状況の人が,健康に対する不安をもっているかというと,全くもってはいないんだよ.ではどういう人が健康に対する不安をもってるかというと,本当に3度,3度,うまい飯を食って,運動に気をつけてみたいな,そういう人たちが健康に不安をもっていて,それで医療崩壊とか言ってるから,それはやっぱり医療崩壊じゃなくて,全体的に崩壊してるなあというようにしか思えないんだよね.良いと思おうじゃないかと,これを.
小林:充足していることが当たり前になってしまう.少しそれから落ちてしまうと,それが崩壊という言葉に….
名郷:だから,それが落ちるという感覚だから,だめなんだと思う.別に全然落ちちゃいないんだよ.どう言っていいのか,よくわからないけど,やっぱりかなり良い世の中が実現できていて,「もっともっと」というところに落とし穴があると思うんだよね.「もっと健康になりたい,もっといいしくみにしたい」….それが間違っていて,「もっと」をやめようと.もういいじゃないかと.「満足」とか,そういう一般的な言葉でもいいんだけどね.満足なんていうのはやっぱり相対的なものだから.どうやっても満足できないというところあるじゃない?
小林:そうですね.
名郷:だから,そういった全然違う世の中を目指していくという方向性があると思うよ.
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