各科がめざす専門医の姿

病理専門医
話し手:深山正久 先生
東京大学医学部人体病理学・病理診断学分野教授/東京大学医学部附属病院病理部長/日本病理学会理事長

研修期間を3年に,病理解剖数を30例に変更

—新しい病理専門医研修について,変更点や特徴などを教えてください.

話し手:深山正久 先生

大きく変わったことは,4年間だった研修プログラムが3年間のプログラムになったことです.そして研修期間の短縮に合わせて,経験すべき症例数を変更しました.特に負担の大きい病理解剖の症例数は,以前は4年間で40症例必要だったのですが,3年間で30症例としました.ただ,それだけでは実力が付きにくいということで,専門医取得後,次の更新までの5年間に,指導という形で10例の病理解剖に確実にかかわる,という変更をしました.すなわち,以前は専門医を取得するまでを高めに設定してあったのに対して,期間と数を少なくし,少なくした分を専門医取得後の生涯学習に切り替えたということです.そこが大きく変わったところです.その他の経験すべき症例数は変わっておらず,研修内容そのものもそれほど変わりません.この3年間のプログラムを,少し先取りする形で2016年度から開始しています.いろいろな問題が起こる可能性があるので,先行的に開始して問題点を解決したうえで,2017年度からの新しい専攻医の人たちに安心して研修を受けてもらえるように配慮しています.

また,新しい研修プログラムでは,研修を基幹施設とその連携施設で受けてもらうことになりますが,複数の病院で研修を受けられるようになることは,病理の研修を受けるうえで大きなメリットだと学会では考えています.1つの病院での研修だとどうしても症例が偏ります.複数の病院で研修を受けることで,症例の幅が広がり,いろいろな先輩病理医の姿を見ることができます.病院によって仕事の流れが違ったり,病理医の専門領域が違ったりしますので,複数の病院でいろいろな先輩病理医に接することができるという点は大きなメリットだと思います.また,1つのプログラムに対して複数の病理指導医がいることになりますので,安心して研修を受けることができると思います.

—病理専門医研修と学位の取得の両立は可能でしょうか.また,専門医取得後の病理診断と研究の両立はいかがでしょうか.

病理の研修プログラムでは,大学院と専門医研修の両立が可能となっており,それを認めています.実際に,専門医研修と大学院を両立しているプログラムも含まれています.病理の場合は,大学院に所属した場合でも,病院と連携して病院診療医というような資格で診断に携わることができます.ですから,病理診断をしながら同時に学位取得のための研究をすることが可能です.

また,専門医取得後の病理診断と研究の両立も,環境にもよりますが可能です.特に大学の医局に属している人たちは,ある程度両立を求められています.どのぐらいのバランスで行うかは,その個人や状況によると思います.

—病理専門医取得後のサブスペシャルティについて教えてください.

病理専門医の先生には日本臨床細胞学会の細胞診専門医をもっている方が多くいます.今後の専門医機構のしくみでも,細胞診専門医資格はサブスペシャルティとして,病理や婦人科などの基本領域を一階とした場合の二階部分となる予定と聞いています.また,病理専門医には臨床検査専門医をもっている人もいます.ただ,臨床検査専門医は病理専門医と同じ基本領域の専門医なので,このダブルボードについてはこれからの検討課題です.

専門医取得後の充実したサポート体制

—病理学会では「病理診断コンサルテーションシステム」や「遠隔診断」などの専門医取得後のサポート体制がとても充実していると感じました.

特に専門医として働きはじめのときは誰でも不安があると思います.病理医は少ないので,仕事で困ったときに相談できる病理医が近くにいない可能性があるかもしれません.例えば,地域の1人病理医でいきなり自分が責任者としてやらなくてはいけない状況などです.ですから病理学会では,専門医を取得した後の病理診断のサポート体制や生涯教育が重要であると考え,もっと充実させていかなくてはいけないと思っているところです.

—すでに充実していると感じましたが,まだ不十分なのでしょうか.

まだいろいろな難しい問題があります.例えば,少し不安に感じていることを横にいる人にパッと聞いて安心することってありますよね.人に一言聞くと安心感をもって診断ができます.でもそれができないと,大した疑問ではなくてもだんだんと不安が増幅していくという場面が出てくると思います.そのようなときに,すぐ横にいる人にパッと聞くような感覚で簡単に利用できるサポートシステムをつくりたいと考えています.最近はスライドをデジタル化して遠隔から見ることができるバーチャルスライドが普及しています.このようなシステムを利用して,その場で上級医に聞いてアドバイスがもらえることが日常的にできるようになると,1人病理医であっても安心してやっていけるのではないかと思っています.

年齢を重ねても勉強ができる,そこに魅力を感じてくれたら

—医学生や初期研修医に伝えたい病理医の特徴,魅力を教えていただけますか.

病理医は医学研究や医療の現場でとても重要な役割を果たしており,「Doctor of Doctors」とよばれるように,多くの医師から求められている専門医です.病理医の診断で治療方針が決定することもあり,責任は重いですがとてもやりがいがあります.また,病理医はすべての臓器を対象としているため,学ぶべきことがたくさんあります.さらに,いろいろな臓器で進歩がありますから学んだ知識をアップデートしていく必要もあります.最近では遺伝子診断などの新しい技術も病理の分野に入ってきています.勉強が嫌いな人にはつらいかもしれませんが,新しいこと,学ぶべきことがあるのは楽しいことです.年齢を重ねても勉強ができる,そこに魅力を感じてくれたらよいなと思います.

加えて,病理医は一生を病理医としてまっとうすることができる点も魅力だと思います.科によっては,年齢を重ねていくと体力的に仕事内容を変更しなければならいこともあるかと思います.病理医の場合は,若いときと同じ仕事が,例えば70歳を超えてもできます.もちろん仕事内容を変えていくこともできますが,ずっと現場で働き続けることも可能です.

—「病理は働きやすい」と伺いました.この点はいかがでしょうか.

それも病理の特徴の1つですね.拘束される時間は必ずありますが,病理医は外来などで時間を縛られることが少ないので自分で時間をコントロールしやすいのです.特に出産を控えた女性医師や子育て中の先生にとっては働きやすいと思います.今,医学生で女性の比率が高くなってきており,病理医でも3〜4割が女性です.女性にとっても男性にとっても出産・子育ては大事な問題ですので,それをどう支えていくのかということは,われわれ学会としても大変重要な課題と考えています.

—学会として,若い人を育てよう,サポートしていこう,という気持ちが強いことも病理の魅力・特徴と感じました.

われわれは,後継者の不足を身に染みて感じています.学会全体として,何とか若い人に入ってもらって育てていきたいという熱意をもっています.そこで,先ほどお話しした専門医取得後のサポート体制の他にも,専攻医の方に研修結果を記録するバインダー形式の「研修手帳」や,専門医の雑誌「診断病理」を無料で配布したり,学生を対象とした合宿「病理夏の学校」を開催したりするなど,若い人への教育に意識的に取り組んでいます.

患者さんと医師をずっと支えられる専門医を育てたい

—学会としては,今後どのような専門医を育てていきたいと考えていますか.

多様な専門医を育てていきたいですね.細胞診を中心にやっている人,病理解剖を中心にやっている人,がんの研究を中心にやっている人など,人によって重点が違っています.この多様さをずっと維持していきたいと思っています.そして,医療のなかで患者さんや同僚の医師たちをずっと支えられるような専門医であってほしいと思っています.そのためには,生涯教育をかなり充実していかないといけないと考えていて,現在,どのような形でeラーニングシステムをとり入れていこうかと学会で議論をしているところです.

―最後に医学生や研修医の先生にメッセージをいただけますでしょうか.

病理医は今,最も求められている専門医の1つです.そして一定程度,時間が自由になって,研究や診療のバランスを自分で保ちながら仕事ができます.迷っている方は,一度,現場で働いている若い病理医の姿をぜひ見てください.安心して病理を選んでもらえると思います.やりがいのある,本当にいい分野ですので,ぜひ病理に来てください.

—貴重なお話をありがとうございました.

聞き手:遠藤圭介,保坂早苗
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