ワールドカフェの手法を用いた市民と医療者の対話 孫 大輔(東京大学大学院医学系研究科 医学教育国際研究センター講師) レジデントノート2014年3月号掲載 所属はレジデントノート掲載当時のものです [SHARE] ツイート さる2011年9月18日,日本プライマリ・ケア連合学会若手医師部会が主催し,東京渋谷のコーププラザにて,「家庭医と話そう! ワールドカフェ」というイベントが開催された.目的は一般市民や医学生に家庭医をより知ってもらうというもので,「みんくるカフェ」という市民と医療者のフラットな対話の場を主宰する孫(筆者)が全面的に協力した.参加者は76名で全国の家庭医,医療専門職,医学生,一般の方などであった. 家庭医と市民が対話する1日 第1部は5人の家庭医による基調講演.まずは藤沼康樹医師(医療福祉生協連 家庭医療学開発センター長)が家庭医の仕事の実際について具体例を盛り込みながらわかりやすく講演を行った.次に菅野哲也医師(荒川生協診療所),吉本尚医師(三重大学総合診療科)がそれぞれ診療所の医師,病院の医師という立場から講演し,最後は密山要用医師(王子生協病院)と孫(筆者)が,家庭医が行う地域ヘルスプロモーションについて話をした. 第2部は,登壇者によるパネルディスカッションで,家庭医に関する質疑応答が行われた.会場からの「家庭医が増えることで日本の医療はどう変わるのか?」という質問に対しては,「市民・患者に主権が移るというパラダイムシフトが起こるのでは」,「医療者と患者の距離感を縮める役割があるのでは」などのやりとりがなされた. 第3部のワールドカフェの様子 第3部は,参加者全体でワールドカフェを実施した.ワールドカフェとは,リラックスした雰囲気のなか少人数に分かれたテーブルで自由に対話を行い,他のテーブルとメンバーをシャッフルしながら話し合いを発展させていく手法である.各テーブルで「理想の医療のために家庭医に期待することは?」,「地域医療において,あなたと家庭医が一緒にできることは?」,「わたしの住む“まち”をより健康にするには?」の3つのテーマについて対話が行われた.対話で出た意見の一部を紹介すると,「市民と医師が出会う機会を増やしたい」,「“まちの保健室”としての家庭医が増えてほしい」,「カフェのような集まり・高齢者の寄合いに家庭医が参加してほしい」,「地域ごとにゆるいネットワーク作りを」,「自分のまちを知るための対話の促進」,「地域で問題を抱えている人が見える環境づくりを進めたい」など,さまざまな意見がみられた. 市民・患者と対話することの重要性 関東以外に北海道,青森,長野,大阪,兵庫など遠方からも多くの社会人や学生が集まり,家庭医やプライマリ・ケアについて学んだり自由に対話したりする意義深い一日となった.ちなみに家庭医である筆者は,2010年より市民・患者と医療者がフラットに対話できる場「みんくるカフェ」を主宰しており,またこうしたカフェ型の対話アプローチを用いて各地の家庭医が地域住民と対話する取り組みを支援している. 日本プライマリ・ケア連合学会医学生・若手医師支援委員会および若手医師部会では,こうした市民・患者の方々との対話を重要と考えており,今後も機会を作っていきたいと考えている.