多職種連携力をもった人材育成プログラム開発の取り組み 吉本 尚(三重大学大学院医学系研究科 津地域医療学講座),春田淳志(東京大学大学院医学系研究科 医学教育国際研究センター) レジデントノート2014年6月号掲載 所属はレジデントノート掲載当時のものです [SHARE] ツイート 総合診療と多職種連携 以前から重要とされていたが,近年特に注目されているのが多職種連携教育および多職種連携に基づく実践である.さまざまな現場でチームとしての対応,解決が求められ,医療制度上,他職種に指示や依頼をしなければならない医師にとって,同職種はもちろんであるが,他職種との連携はどの領域でもきわめて重要なテーマである. 特に総合診療を提供する医師は,領域横断的な問題を扱うことが多いため,他の領域別専門医や多職種と連携して問題解決する機会が多い.また在宅や施設などでは多くの医療福祉専門家との連携,学校・職場・保健所などでは保健福祉専門家との連携が必要とされる.このように総合診療を担う医師は,さまざまな職種との連携を通して包括的かつ柔軟に医療保健福祉サービスを提供することが求められている. よりよい連携教育と実践に向けて 読者の皆さんは医学部での授業や実習で,あるいは実際に現場に出てから多職種連携を学んだことがあるだろうか? 本稿では若手の活動の1つとして,2013年度から筆者らが代表として文部科学省の委託を受けて実施している『地域の医療・介護を支える「多職種連携力」を持つ中核的専門人材育成プログラム開発』事業について少し取り上げたい. 本事業は「患者(当事者)のための多職種連携」と「生涯学習のための多職種連携」の2つのミッションがある.私たちは自分(あるいは自分の専門職)とは認識枠組みの違う他者(あるいは他職種)との交流によって,他者を鏡として振り返ることができる.こうして鍛えられた複眼的視点により,患者(当事者)を中心とした複雑な問題を,チームや組織・地域といった広い視点で理解することができるようになる.このように,「患者のために」現場で働く多職種と学びあい連携する姿勢こそが自らの成長を促す「生涯学習」につながる. このミッションに基づき本事業の教育プログラムは,「患者(当事者)を中心とした複雑な問題に対して,多職種と協働し他職種や自職種の理解を深めながら,解決あるいは安定化できる能力」を育むことをアウトカムとした,卒前・卒後の一貫したプログラムを青写真として掲げている. 連携教育の現状 昨年度は全国調査を行い,① 卒前に連携教育があまり行われていないこと,② 知られていない職種に偏りがあること,③ 連携の要となる職種がコミュニケーションなどのスキルに自信がないこと,などがわかってきた.詳しくは日本医学教育学会,日本保健医療福祉連携教育学会などで発表予定である.また,多職種連携教育および多職種連携に基づく実践のためのテキストも本事業のホームページに無料公開しているので,興味がある方はご覧いただきたい(http://ipeipw.org/). くり返しになるが,私たちは「患者(当事者)のための多職種連携」と「生涯学習のための多職種連携」の2つの軸をミッションとし,今後も多職種連携にかかわる問題提起,課題解決を図っていきたいと考えている.そのためにも柔軟な視点をもつ読者の皆さんの協力・参加を期待している.