英国短期留学から見えた英国における家庭医認定制度と家庭医の診療 髙栁宏史(福島県立医科大学医学部 地域・家庭医療学講座) レジデントノート2014年8月号掲載 所属はレジデントノート掲載当時のものです [SHARE] ツイート 日本プライマリ・ケア連合学会と英国家庭医学会(Royal College of General Practitioners:RCGP)との間で行われた2013年度「日英プライマリ・ケア交換留学プログラム」パイロット事業の一環で2013年9月29日から10月5日まで約1週間渡英することができた.そこでの国際交流を通して学んだことを紹介する. 英国家庭医療専門医の育成制度について 英国における家庭医療の専門研修は,家庭医の働く診療所での研修が18カ月と,家庭医以外の専門医に指導される研修18カ月,合わせて36カ月間のコースが一般的である.英国で家庭医療専門資格を取得するためには,定められた研修を修了することに加え,知識領域を問う臨床応用試験(Applied Knowledge Test:AKT),13の模擬診察の評価をする臨床技能評価(Clinical Skills Assessment:CSA),そして研修医の家庭医としての適性や学習到達度を評価する職場基盤評価(Workplace Based Assessment:WPBA)に合格しなければならない.特にWPBAの評価は重要で,一緒に働く同僚のスタッフ(医師以外)による360度評価や患者満足度評価なども含まれており,非常に多角的に家庭医としての適正と能力を確認されることになる. 英国家庭医の診療の実際 外来を見学した診療所の前でRamsay医師と. 今回の短期留学では,スコットランドのMorayという地区に3日間滞在する機会を得ることができた.滞在中は,RCGPの若手国際委員会(Junior International Committee)の委員長を務め,昨年このパイロット事業で福島に滞在したRobin Ramsay医師の好意により,彼の自宅にホームステイをしながら彼が代診医(locum)として働くFochabers Medical Centreの午前中の予約外来を見学することができた.1人15分の枠で,午前中に11名の患者さんの診療を行っていた.1歳の気管支炎の子と不安そうな母親や,ホームレスである20歳代のうつ病の若者,めまいの症状のため病院でホルター心電図検査を受けてきた 60歳代の女性など年齢層は小児から高齢者まで幅が広く,患者さんが相談した健康問題も実にさまざまであった.特に印象的であったのは,待合室にいる患者さんの所まで出迎えて挨拶と握手を交わした後に診察室へ誘導し,診察室ではまず患者さんの話をじっくりと傾聴するといった点である.外来の診療態度はまさに患者中心の医療面接の実践であり,外来を終えた患者さんはみんな納得した表情をしていたのが印象的であった. 日本に帰ってきて 英国の異なる医療制度のなかでも家庭医のコアとなる特性については共通する部分を実感することができたことが,日本における自分の診療の支えとなっていることに気が付いた.また異なる国を通して,自国を俯瞰することができるようになり,より深く日本という国を知ることになった. 参考文献 1)髙栁宏史 ほか:日英プライマリ・ケア交換留学プログラムパイロット事業-英国短期訪問プロジェクト参加報告.日本プライマリ・ケア連合学会誌,37(2),2014(in press)