米国での家庭医療を経験して(ミシガン大学家庭医療科プログラム) 吉野 弘(静岡家庭医養成プログラム 菊川市家庭医療センター) レジデントノート2016年7月号掲載 [SHARE] ツイート 現在日本では,多くの特色ある総合診療・家庭医療の後期研修プログラムがある.私は地域医療,国際保健医療,小児医療を経験し,現在は静岡家庭医養成プログラムのクリニカルフェローとして修練中である.今回ミシガン大学の家庭医療科を視察したのでレポートする. ミシガン大学での家庭医療研修 ミシガン大学家庭医療科は米国ミシガン州アナーバーを拠点とし近郊の地域の総合診療・家庭医療および医師教育を担う100人規模(教員,診療所スタッフ,レジデント)の大プロジェクトである.2010年よりSMARTER FMプロジェクト(Shizuoka-University of Michigan Advanced Residency Training, Education and Research in Family Medicine)として,定期的にミシガン大学と静岡家庭医養成プログラムのレジデント医師とで交流を行っている.私は研修1年目にミシガン大学家庭医療科を1週間訪問し,ホスピス・家庭医療外来・家庭医による分娩立会い,模擬患者による診察トレーニングを視察・体験した.そのなかで印象に残った症例を紹介する. 家庭医による小児診察 ミシガン家庭医療プログラム,ミシガン大学日本家庭健康プログラムスタッフ ミシガン大学准教授スカイ医師による患者診療実習 11カ月の男児で,2日前より左耳を気にして触っており母親が心配で家庭医療クリニックに来院された.全身状態は良好で,鼓膜も正常だったが,左頬部から側頭部にかけた発赤を伴う小丘疹が散在していた.外耳周囲の脂漏性湿疹と診断し,一般的なスキンケアの指導を受け帰宅された.この症例は日本の小児科外来でも非常によく経験するありふれた症例ではあるが,印象的だったのは,診察しているのが小児科,耳鼻科や皮膚科の専門医でもなく「家庭医」という点だった.私自身,以前小児科医として診療していた頃は皮膚科や耳鼻科などの境界領域を診療する機会は少なくなかった.小児医療をもっぱらとしていない家庭医も,当然のように親御さんと市販薬の使用法について話している光景をみて,アメリカでの家庭医療の伝統・歴史を感じた. 米国では家庭医はかかりつけ医としての地位を確立し,住民から信頼される診療を行っていた.日本では家庭医療専門医や家庭医の認知自体もまだまだであり,日本でも家庭医療を広めていきたいと感じた. 海外で研修すること ミシガン大学の研修では,研修医それぞれの趣向に合わせてさまざまな研修をすることができる.スポーツ医学,緩和医療などに特化した研修も選択できる.海外での研修というとややハードルは高いかもしれないが,その労力に見合うだけの学びは十分に得られた.機会があれば,海外で研修をして自分たちの提供する医療を見つめ直すことをおすすめする.