劇的に診断力上がる!
診断推論×ロジックツリー

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始めよう!
診断推論×ロジックツリー

2022年7月22日 公開

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ロジックツリーの実践

ロジックツリーを用いた診断の基本についてご理解いただけましたでしょうか.ここからは,当院外来症例でのロジックツリーの実際の使用例を紹介します.

症例1

特に既往歴のない60歳代の女性.音楽教室でフルートを吹いていたときに突然首の痛みが出現したため当院受診.直前の外傷歴なし.痛みはするどい痛みで持続痛であり体動時に特に憎悪する.首を回旋すると右肩から右上肢にかけて痛みを伴う.
体温 37.1℃,血圧 130/82mmHg,脈拍数 90回/分,SPO2 100%(room air)

本症例では,来院時の頭頚部のCT検査や血液検査では当初明らかな異常を指摘できませんでしたが,患者さんの痛みの訴えが強いことから何かしらの緊急性の高い器質的疾患が隠れているのではないだろうかと考えました.

図6 症例1:解剖学的アプローチからのロジックツリー例
図6
症例1:解剖学的アプローチからのロジックツリー例

「フルートを吹いていたとき」という発症時点が明確な病歴からは突然発症の発症様式が考えられ,椎骨脳底動脈解離やくも膜下出血なども疑われましたが,まずは症状が頚部に限局していることから病態的アプローチではなく解剖学的アプローチからロジックツリーを展開することとし,原則通り解剖学的に臓器別のカテゴリーを列挙しました(図6)

次に体動時の疼痛という憎悪因子から「脊椎/脊髄」「髄膜」「筋肉」の3つのカテゴリーが特に疑わしく,さらに頚部回旋時の上肢への放散痛という病歴から脊髄神経を圧迫する疾患が考えられました.そして上記のカテゴリーの中から,外傷歴がないにも関わらず突然発症という発症様式であることから内因性の出血性病変などを疑い,その目でもう一度CT画像の頚髄のあたりをよく見返してみたところ,脊髄の周囲に一部density(吸収域)の変化があることに気づき,特発性脊髄硬膜外血腫の診断に至りました.

症例1の診断:特発性脊髄硬膜外血腫

症例2

アルコール依存症の既往のある70歳代男性.3年程前から下腿浮腫があり近位にてアルコール性肝障害に伴うものとして利尿薬を処方されていた.3カ月前からは,顔や上肢まで浮腫が広がり,労作時の呼吸苦も出現してきたため当院外来を受診した.
体温 36.6℃,血圧 108/80mmHg,脈拍数 105回/分,SPO2 95 %(room air)

本症例では来院時の血液検査で低アルブミン血症(Alb 2.3g/dL)を認めており,当初はアルコール性肝硬変に伴う血漿膠質浸透圧の低下による浮腫で矛盾がないように思われました.

図7 症例2:病態的アプローチからのロジックツリー例
図7
症例2:病態的アプローチからのロジックツリー例

しかし,病態的アプローチによるロジックツリーを展開し9)(図7),肝硬変という具体的診断名から一段階抽象化したカテゴリーである「蛋白の産生低下」でよいのかと考えた際に,ChE(233U/L)や総コレステロール値(278mg/dL)の低下はなく肝硬変に伴う蛋白の産生低下としては矛盾があり「蛋白の喪失」のカテゴリーを疑いました.

採血上は炎症反応上昇もなく(WBC 5700/μL,CRP 0.12mg/dL),病歴上は下痢もないことから尿からの喪失を疑い尿検査を施行したところ高度蛋白尿を認め(尿蛋白クレアチニン比5.78g/g・cre),ネフローゼ症候群の診断となりました.糖尿病の既往歴などはなく,ネフローゼ症候群の原疾患について慢性糸球体腎炎などを考え腎臓内科医師と相談していたところ,心エコーで心肥大と輝度の上昇を認めたため全身性アミロイドーシスを疑い消化管内視鏡検査を行う予定としましたが,検査前に胸水の増加と肺炎を併発し呼吸状態が悪化しNPPV装着となりました.視診上は明らかな皮膚病変は認めませんでしたが,状態的に内視鏡検査を行うことが難しくなったため代わりにベッドサイドで皮膚生検を施行した結果,組織からアミロイドが検出され,免疫電気泳動の結果とあわせてMGUSベースの全身性ALアミロイドーシスの診断に至りました.

症例2の診断:全身性ALアミロイドーシス

ロジックツリーを実践するツール

いかがでしたでしょうか.ロジックツリーを作成する方法がわかっても,いざ実践で使用するとなると躊躇してしまうことがあります.ロジックツリーを作成するツールとして筆者がおすすめするのは電子メモパッドです.電子メモパッドは安いものなら1000円程度で購入することもできるうえ,何度も書いたり消したりができるので便利です.筆者は8.5inchのものを使用していますが,あまりにも小さいポケットサイズのものを購入した場合は十分にロジックツリーを展開するスペースがないため,図8の例のようにロジックツリーを簡略化して記載するという方法もあります.また電子カルテに保留機能などがあれば,そちらを使って図8のような簡略化したロジックツリーを記載することもできますので,ぜひ皆さんも明日からこのロジックツリーのテクニックを使ってみてください.きっと診療の幅が広がると思います.

失神(病態的アプローチ)

  • 心原性
    不整脈 心筋梗塞 AS 心タンポナーデ
  • 起立性低血圧
    脱水 出血 薬剤性
  • 神経調節性失神
    迷走神経反射 状況失神
  • その他
    てんかん 椎骨脳底動脈循環不全
図8 電子メモパッドを使用した簡略化ツリー構造の記載例
図8
電子メモパッドを使用した簡略化ツリー構造の記載例

次回,3つのステップで質問をするだけで診察しながら簡単にロジックツリー作成ができてしまう「3STEPの問診」のやり方をご紹介します!

参考文献
  1. Croskerry P:A universal model of diagnostic reasoning. Acad Med, 84:1022-1028, 2009[PMID:19638766]
  2. 「診断戦略 診断力向上のためのアートとサイエンス」(志水太郎/ 著),医学書院,2014
  3. 「ロジカル・シンキング」(照屋華子,岡田恵子/ 著),東洋経済新報社,2001
  4. 「[新版]考える技術・書く技術 問題解決力を伸ばすピラミッド原則」(Minto B/ 著,山崎康司/ 訳),ダイヤモン ド社,1999
  5. 「新版 問題解決プロフェッショナル」(齋藤嘉則/ 著),ダイヤモンド社,2010
  6. 「めざせ!外来診療の達人 第3 版」(生坂政臣/ 編著),日本医事新報社,2010
  7. 「内科初診外来 ただいま診断中!」(鋪野紀好/ 著),中外医学社,2020
  8. Nendaz MR & Bordage G:Promoting diagnostic problem representation. Med Educ, 36:760-766, 2002[PMID:12191059]
  9. 「キーワードから展開する攻める診断学(レジデントノート増刊)」(蓑田正祐,山中克郎/ 編),羊土社,2012

※本記事は Gノート2021年6月号「明日からの診療を変える!臨床推論×ロジックツリー 」を再掲載したものです.

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著者プロフィール

小栗太一(Taichi Oguri)
独立行政法人労働者健康安全機構 旭労災病院 総合内科部長