【羊土社ニュース登録者限定】2012年ノーベル生理学・医学賞 受賞記念コンテンツ:山中伸弥先生の執筆原稿「iPS細胞の樹立−予想外の実験結果に感謝」全文公開
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2012年10月,ケンブリッジ大学のJohn B. Gurdon博士と京都大学の山中伸弥博士に,2012年ノーベル生理学・医学賞が授与されました.

ご受賞の祝福を込めて,本コンテンツでは,実験医学2012年8月号に掲載された山中伸弥先生のご原稿「iPS細胞の樹立-予想外の実験結果に感謝」を,羊土社ニュース登録者限定で全文公開しております(一般公開は終了いたしました).山中先生の研究に対する情熱と幹細胞・再生研究の発展の軌跡をご一読いただけましたら幸いです.

※2012年ノーベル賞の特別記事を緊急掲載!実験医学2012年12月号もぜひご一読ください!!

iPS細胞の樹立―予想外の実験結果に感謝

山中先生
山中伸弥(Shinya Yamanaka)
1987年,神戸大学医学部卒業.整形外科研修医として病院勤務を経て,’93年,大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了後,米グラッドストーン研究所留学.’96年,大阪市立大学医学部薬理学教室助手.’99年,奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター助教授,2003年,同教授就任.’04年,京都大学再生医科学研究所教授就任,’10年4月より同iPS細胞研究所所長.ラスカー賞,ガードナー国際賞,恩賜賞・日本学士院賞,京都賞,米国科学アカデミー外国人会員選出,ウルフ賞,ミレニアム技術賞など受賞.

われわれは,2006年にマウス,続く2007年にヒトの皮膚由来の線維芽細胞に4つの遺伝子を導入することで,ES細胞と同様な状態まで核を初期化(リプログラミング)可能なこと,すなわち多分化能を備えた多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)を樹立できることを報告した.この成果は,幹細胞生物学研究に与えたインパクトに加え,新たな細胞治療および創薬をもたらす技術として注目を浴びている.本稿では,iPS細胞樹立に至るまでの経緯に焦点を当て,幹細胞生物学の主流の1つへと急速に発展したiPS細胞研究を概観するとともに,今後の展望について紹介したい.

 はじめに

臨床医学(整形外科)から一転,基礎研究の道を目指すことを決意した私が現在の研究とめぐり合うきっかけとなったのは,米国留学先であるGladstone研究所(Gladstone Institute of Cardiovascular Diseases)での全く予想外の実験結果と,その延長線上でのES細胞(胚性幹細胞:embryonic stem cell)との出会いであった.

予想外からはじまった研究のスタート

写真1 Gladstone 研究所にて
写真1 Gladstone研究所にて

私は1993年から1997年まで,San FranciscoにあるGladstone研究所Tom Innerarity研究室のポスドクとして,LDL(低密度リポタンパク質)の構成成分である,Apo B(apolipoprotein B)に関する遺伝子レベルでの発現機序解明をテーマにとり組んでいた.具体的には,ApoB遺伝子のmRNAエディティングを制御する因子であるAPOBEC1(apo B mRNA editing catalytic subunit 1)に着目し,機能解析を行った.当初,Tomや私は「APOBEC1を,肝臓で特異的に過剰発現させれば,血中コレステロール値の低下が導かれるのではないか」と予測し,トランスジェニックマウスの系による検証を試みた.当初の目的は,この結果を用いた,家族性高脂血症に対する遺伝子治療応用の可能性を検討するためであった.しかし,全く予想もしていなかったのだが,トランスジェニックマウスのほとんどが雄雌を問わず,腹部が妊娠中のように膨らむことがわかった.解剖した結果,肝細胞がんの発生が高頻度に確認された1).この発がんの分子機構を解明しようとする試みのなかで,APOBEC1の新規標的分子としてNAT1(novel APOBEC1 target 1)を見出した2).さらに過剰発現させたAPOBEC1による異常なRNAエディティングの結果,NAT1タンパク質の機能が抑制されていること,またNAT1はがん抑制遺伝子として作用する可能性のあることが示唆された.そこで私は,「APOBEC1の過剰発現が,標的分子であるNAT1のがん抑制因子としての機能を阻害するため,マウスでの高率での腫瘍形成に至った」との仮説を立てた(写真1).

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