[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第76回 若手間交流から生まれるアウトプットの機会

「実験医学2016年10月号掲載」

全国には,学会とは異なるさまざまな研究者ネットワーク・交流会が存在する.なかでも若手を対象としたものは「若手の会」とよばれることが多く,合宿や定期セミナーの開催を通してメンバー間での交流を図っている.われわれの所属する生化学若い研究者の会(生化若手)もその1つである.このようなネットワークは,異分野の知見や友人を得るのに役立つだけでなく,多彩なアウトプットの機会をもたらしてくれる.そこで本稿では,われわれが携わった活動を通じて,若手間交流がアウトプットのきっかけとなった例を紹介してゆく.

はじめに,生化若手から生まれた活動例を紹介しよう.生化若手のアウトリーチに興味をもつ有志「キュベット委員会」では,出版社とのやりとりのなかで,生命科学トピックを解説する書籍を3冊出版する機会をいただいた.これは,研究室のなかだけでは培い難い執筆力・マネジメント力を伸ばす貴重な経験になった.また若手の会では,学会において企画を行う機会をいただくこともある.生化若手では,ご後援を賜っている日本生化学会の大会においてフォーラムを主催する機会をいただき,若手研究者が抱える問題について当事者である若手同士で議論する場をつくっている.また,会全体としてこれまで行われてきた活動に参加するだけでなく,会における人との出会いから生まれるアウトプットもある.筆者は生化若手で知り合った先輩から依頼を受け,サイエンスカフェにパネリストとして登壇させていただいた.開かれた場で話すことは,新しい人との出会いにつながる.他にもよい出会いの例は枚挙に暇がなく,若手の会の友人同士で共同研究を行い,論文に成果したケースもある.

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さらに,生命科学と離れた分野・業種の人との交流も,アウトプットにつながることがある.例えば筆者は,フィールドワーカーの交流の場に参加した際,研究書籍の分担執筆を依頼された.非フィールドワーカーが会に参加することは稀なため,フィールドワークの方法論を別の領域の研究方法と比較する視点が必要とされたからである.この経験は互いの研究において刺激になった.また,クリエイター業界からも研究者は求められている.筆者は昨年サイエンスクリエイター交流会という会で漫画家の方と出会った.その方は理系の知識や学生の視点を求めていたため,生化若手の友人と一緒に取材を受け,作品づくりに貢献させていただいた.漫画家の方が取材を通して蓄積された先端知識から,こちらが逆に勉強させていただくことも多く,アウトプットを目的とする交流は単なる知識提供の枠を越えて有意義であった.

ここまで,学会と異なる研究者ネットワーク・交流会の利用によって得られるアウトプットの例を示してきた.それでは,どうすればよい機会に巡り会えるのか.まずは,入り口として自分の研究分野の若手セミナーに参加してみてはいかがだろう.例えば生化若手では,異分野の生物物理・脳科学・分子科学若手の会との合同企画を定期的に行っている.一度ネットワークに入れば,繋がりは分野を越えて連鎖的に広がってゆく.さらに,若手の会同士をつなぎ,出版社や理系企業などからもコンタクトのとりやすいシステムや,複数の若手の会を俯瞰できる窓口が整備されれば,異分野・異業種との交流がしやすくなるだけでなく,個々の会の活性化につながり,アウトプットの機会も増えてゆく可能性がある.そして,われわれもさまざまな交流の機会を積極的に活用していくべきであろう.

若手ネットワークには巨大な可能性が眠っている.参加することによりアウトプットの機会に恵まれ,その活動を通して新たな出会いが生まれる.そのようなポジティブフィードバックの先には,既存の枠を越えた研究や表現の領域が生まれるかもしれない.より多くの人が交流を行うことで,この興味深い“若手文化”がますます発展することを期待している.

宮本道人,馬谷千恵(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2016年10月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2016年10月号 Vol.34 No.16
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岡田随象/企画
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