実験医学 2005年9月号 Vol.23 No.14

疾患解明への新たなパラダイム エピジェネティクス

  • 塩田邦郎/企画
  • 2005年08月19日発行
  • B5判
  • 115ページ
  • ISBN 978-4-7581-0103-5
  • 1,980(本体1,800円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》ゲノム配列がすべて解読されても,なぜ細胞の種類に特徴的な形質が生まれ維持されるのか,答えは出ない.DNAとヒストン修飾によるエピジェネティクス機構は,DNA塩基配列の変化なしに細胞世代を超えて継承される遺伝子サイレンスを生じる機構である.正常なエピジェネティクスとは?どのようなメカニズムで? 癌をはじめとするさまざまな病気とエピジェネティクスの破綻は? その制御は?などの疑問に答えながら,エピジェネティクスがさまざまな生命科学領域の基盤になることを示したい.

 DNAやヒストンのメチル化に代表されるエピジェネティック修飾と遺伝子発現機構との関係が近年急速に明らかになってきています.また,エピジェネティック修飾の異常が疾患の原因となっている例も報告され,エピジェネティクス研究は疾患解明という観点からも大変注目を集めています. 本特集では,発生や分化,細胞記憶においてメチル化修飾が果たす役割を中心に,ゲノムワイドなDNA修飾のメカニズム解明,癌をはじめとする疾患とのかかわり,そしてケミカルジェネティクスによるクロマチン修飾研究まで,進展著しいエピジェネティクス研究の最新知見をご紹介しています.

目次

特集

疾患解明への新たなパラダイム
エピジェネティクス
DNAメチル化を中心とした発生・癌研究とエピゲノム解析への展開
企画/塩田 邦郎
概論 〜生命科学の新たなパラダイム:エピジェネティクス【塩田邦郎】
ゲノム配列がすべて解読されても,なぜ細胞の種類に特徴的な形質が生まれ維持されるのか,答えは出ない.DNAとヒストン修飾によるエピジェネティクス機構は,DNA塩基配列の変化なしに細胞世代を超えて継承される遺伝子サイレンスを生じる機構である.正常なエピジェネティクスとは?どのようなメカニズムで? 癌をはじめとするさまざまな病気とエピジェネティクスの破綻は? その制御は?などの疑問に答えながら,エピジェネティクスがさまざまな生命科学領域の基盤になることを示したい.
DNAメチル化情報からみた哺乳類胚発生と細胞分化【田中 智/塩田邦郎】
哺乳類の受精卵は,精子と卵子のゲノムDNAがもつエピジェネティック情報を初期胚のそれに書き換えて,胚発生の遂行に必要な遺伝子発現を制御すると考えられる.エピジェネティック制御機構の1つであるDNAメチル化は,インプリント遺伝子やX染色体の不活性化以外にも,細胞・時期特異的遺伝子の制御にもかかわることが知られるようになってきた.ゲノム全体のDNAメチル化量の変動とは別に,発生過程における遺伝子領域のメチル化変化の解析が必要である.
個体発生におけるメチル化DNA結合タンパク質の役割【青戸隆博/市村隆也/坂本快郎/南 建/中尾光善】
哺乳類の発生過程では,1つの受精卵が増殖分化を繰り返して,異なる形態や機能をもつ幾多の細胞群を創ることで組織・器官そして個体を形成している.その構成単位としての細胞は基本的に同一のゲノムを有しているが,遺伝子発現のプログラムを変えることで固有の表現型を呈している.本稿では,DNAメチル化というエピジェネティックな情報を細胞制御に変換するメチル化DNA結合タンパク質の役割,その機能異常による発生病態に焦点を当てて,個体発生における DNAメチル化の重要性について考察する.
ヒストンメチル化と細胞記憶【眞貝洋一】
ヒストンがメチル化修飾を受けるという最初の報告は1964年に遡る.ところが最近に至るまで,ヒストンのメチル化修飾の生物学的意味は不明のままであった.しかし近年になり,ヒストンのメチル化を触媒する酵素が次々と同定され,状況は一変した.現在では,ヒストンのメチル化修飾はエピジェネティックな遺伝子発現制御において中心的な役割を担っていると考えられている.本稿では,ヒストンメチル化修飾の機能と制御に関して,特に最近の進展と今後に残された課題に関して述べてみたい.
DNAのメチル化と疾患 〜栄養性因子,薬剤,および胎生期の影響【John Greally/前田千晶/塩田邦郎】
細胞は分化段階に応じて,発現する遺伝子を使い分けている.同じDNAの配列情報をもとに細胞に即した遺伝子発現を行うためには,塩基配列とは違う次元の制御が必要である.エピジェネティクス制御系は,DNAの塩基配列のカタログから,必要な情報を選択して利用する機構といってもよい.細胞のエピジェネティック状態は安定ではあるが,正常・異常な状況に応じてダイナミックに変化しうる.本稿では,DNAのメチル化とヒストン修飾が,栄養性因子,薬剤などで変化することを示し,疾患の原因としての可能性を記す.
DNAメチル化異常と発癌 〜DNAメチル化異常の発生機構から臨床応用まで【牛島俊和】
癌では,ゲノム全体の低メチル化と,一部のCpGアイランドのメチル化が認められる.特に,後者は,癌抑制遺伝子不活化の重要な機構であり,突然変異による不活化よりも高頻度に認められる場合もある.さまざまな癌で,さまざまな遺伝子がメチル化されるが,発癌の早期から認められるものも多い.DNAメチル化異常は,高頻度に認められ,高感度に検出できるという特長を活かして,癌の存在,性質,発癌リスクの診断に用いることができる.脱メチル化剤の臨床治験でも有望な成績が得られている.研究的には,DNAメチル化異常の発生機構は興味深く,内在性異常や外来性の要因が,遺伝子転写の低下や「メチル化の種」の産生を通じて,DNAメチル化異常を誘発することが示唆されている.
エピジェネティクス異常を標的としたケミカルジェネティクス【吉田 稔】
DNAには直接書き込まれていない遺伝情報であるエピジェネティクスは,発生,分化に伴う細胞の表現型の記憶に中心的な役割を果たす.ヒストンアセチル化はエピジェネティクス制御の重要なメカニズムの1つであり,そのレベルはアセチル化酵素(HAT)と脱アセチル化酵素(HDAC)によって調節される.HDACはDNAメチル化酵素(DNMT)などと協同してサイレンシングと発癌に関与することが明らかになってきた.そのためHDAC阻害剤と DNMT阻害剤が新しい癌の治療薬として注目を集めている.本稿ではケミカルジェネティクスによるクロマチン修飾研究の基礎と応用について概説する.

トピックス

カレントトピックス
紫外線によるDNA損傷の修復機構とユビキチン化【菅澤 薫】
シナプトネマ複合体タンパク質による減数分裂期の相同性非依存的なセントロメアカップリング【坪内知美】
Transthyretinアミロイドーシスの発症メカニズム【関島良樹】
News & Hot Paper Digest
L1による神経前駆細胞の体細胞モザイク化【杉野英彦】
microRNAの生理機能解明への新しいアプローチ【齋藤都暁/塩見美喜子】
光り輝く内在性Foxp3+CD4+制御性T細胞【西岡朋尚】
新規ポリA付加装置による核内RNA品質管理機構【廣瀬哲郎】

連載

クローズアップ実験法
目的遺伝子の抑制レベルを自由に制御するアデノウイルスベクターの開発【水口裕之】
Update Review
インターフェロン発見から半世紀【宇野賀津子】
私が名付けた遺伝子
第9回 TROY 〜発掘された新規TNF受容体〜【小嶋哲郎/北村俊雄】
ラボレポート−留学編−
すべては一通のメールから Phillip D. Zamore研究室〜University of Massachusetts Medical School【泊 幸秀】
効率的なバイオ実験の進め方
第3回 バイオ実験がうまくいく方法【佐々木博己】
学会・シンポジウム見聞録
ヨットハーバーとパームツリーの研究都市,San Diegoでの学術集会【黒川理樹】
学会・シンポジウム見聞録
第58回 日本細胞生物学会大会に参加して【三木裕明】

関連情報

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  • 【本書名】実験医学:疾患解明への新たなパラダイム エピジェネティクス
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