実験医学 2005年10月号 Vol.23 No.16

血管形成の分子メカニズム

発生・がん・再生プログラムから多角的に解き明かす

  • 高倉伸幸/企画
  • 2005年09月20日発行
  • B5判
  • 113ページ
  • ISBN 978-4-7581-0104-2
  • 1,980(本体1,800円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》血管形成の関与しない臓器形成はないといっても過言ではなく,これは成体における,炎症・癌・虚血疾患など種々の病態形成にも同じことがあてはまる.近年,血管形成に関与する分子の旺盛な単離およびその遺伝発生工学的手法を用いた機能解析が進み,従来の血管形成の概念(脈管形成と血管新生)に分子論的な意味付けがなされてきた.このような血管形成の分子メカニズムの解明に立脚し,血管形成を制御する臨床応用がここ数年の間に急速に進展してきた.そこで本特集では第一線の研究者に血管形成の分子機序がどこまで明らかにされてきたのかをわかりやすく解説していただくことにした.

血管形成の分子メカニズムの解明は,基礎研究から再生医療に至る多くの分野から注目されています.本特集では,発生・癌・再生という幅広い視点からみた血管研究の最新知見を紹介いたします.

目次

特集

血管形成の分子メカニズム
発生・がん・再生プログラムから多角的に解き明かす
企画/高倉 伸幸
企画者の言葉【高倉伸幸】
血管形成の関与しない臓器形成はないといっても過言ではなく,これは成体における,炎症・癌・虚血疾患など種々の病態形成にも同じことがあてはまる.近年,血管形成に関与する分子の旺盛な単離およびその遺伝発生工学的手法を用いた機能解析が進み,従来の血管形成の概念(脈管形成と血管新生)に分子論的な意味付けがなされてきた.このような血管形成の分子メカニズムの解明に立脚し,血管形成を制御する臨床応用がここ数年の間に急速に進展してきた.そこで本特集では第一線の研究者に血管形成の分子機序がどこまで明らかにされてきたのかをわかりやすく解説していただくことにした.
血管の発生と分化メカニズム 血管構成細胞の分化多様化の視点から【山下 潤】
血管は,血管を構成する細胞(内皮細胞と壁細胞)が分化した後,正しく相互作用し,血管としての成熟し安定した高次構造の形成が達成されることにより,臓器としての機能を果たす.最近,動静脈内皮細胞やリンパ管内皮細胞などの特異的分子マーカーが報告され,血管多様性の問題に対しても研究が進んできた.また,幹細胞生物学の進歩は,血管形成に新たな側面からの知見をもたらした.血管発生・再生に関する理解は,血管が関与するさまざまな生命現象の真実に迫るとともに,種々の新たな治療戦略の開発につながるであろう.
血管新生のネガティブフィードバック調節因子 〜vasohibin〜【安部まゆみ/佐藤靖史】
創傷治癒部位や性周期に伴って子宮内膜や卵巣でみられる生理的な血管新生は,部位も期間も一定の制御された現象だが,癌や炎症性疾患でみられる血管新生は,生理的範囲を逸脱した病的血管新生である.生理的血管新生の際にはホメオスタシス維持のためにネガティブフィードバックを担う分子が作用するが,病的血管新生の場合にはこの系が破綻していると推測される.そこでわれわれは,代表的な血管新生促進因子VEGFにより発現が惹起され,血管新生を終息させる因子を見出し,vasohibinと命名した.vasohibinは血管新生における初のネガティブフィードバック調節因子である.
血管形成における造血のリンク【山田賢裕/高倉伸幸】
造血器官である胎児の肝臓や成体の骨髄においては造血と血管形成が同時に発生・形成されていく.われわれはその血管形成過程において血液細胞が密接に関与していると考え,造血幹細胞がAngiopoietin-1を分泌して局所に血管新生を誘導すること,成熟した血液細胞がニューロピリン1を発現することによりVEGFを局所に運び,血管形成を促進することを明らかにしてきた.さらに,最近のデータから造血幹細胞分画から血管内皮細胞および壁細胞が組織特異的に分化してくることもわかってきた.本稿では血液細胞と血管内皮細胞の発生から,造血と血管形成の相互作用について紹介し,血管再生医療における血液細胞の新たな可能性とその役割について言及したい.
血管系と神経系の相互作用【向山洋介】
血管網と神経網は,標的組織・細胞に向かって,秩序ある分岐パターンを形成し,頻繁に並走している.神経系では,神経軸索ガイダンス分子がその分岐パターンを制御することが知られているが,血管網分岐パターンの形成は未だ不明な点が多い.最近,血管系と神経系が,発生過程において,共通の分子を利用することが報告され,神経発生研究の知見とロジックを用いた血管発生の研究が進んでいる.
無血管組織における負の血管形成制御【宿南知佐/開 祐司】
間充織は多量の細胞外マトリックスをもち,豊富な血管網によって栄養されている.しかし,上皮組織を裏打ちする基底膜は,間充織からの血管侵入を許さない.このような基底膜の血管侵入抵抗性は基底膜成分の性質に起因していると考えられ,基底膜コラーゲンの分解産物などに血管新生抑制活性が認められている.一方,間充織には軟骨のように無血管組織として知られるものが存在する.腱や靭帯のような強靱結合組織もほぼ無血管に保たれている.このような組織では,基底膜とは異なる負の血管形成制御が働いている.
癌組織における血管形成とリンパ管形成の接点【吉本貴宜/久保 肇】
血管研究の発展に続いて,リンパ管の研究は急速に進展しつつある.最近,VEGF-C/VEGFR3以外のリンパ管新生関連分子が続々と報告されている.また,癌進展過程におけるリンパ管新生機構もより詳細に明らかになりつつある.組織・臓器の発生と再生や多くの疾患において,血管形成とリンパ管形成は密接にかかわりながら重要な役割を担っていることがわかってきた.

トピックス

カレントトピックス
RNAポリメラーゼIIとRNAi依存的ヘテロクロマチン【加藤太陽/村上洋太】
古典的酵素の新しい機能:酸化ストレスのセンサーとしての解糖系酵素GAPDH【原 誠/澤 明】
アグリソームとプロテアソーム機能の同時抑制は相乗的に多発性骨髄腫細胞を障害する【秀島 輝】
1型糖尿病におけるインスリンエピトープの役割【中山真紀/George S. Eisenbarth】
News & Hot Paper Digest
染色体解析が解き明かすエストロゲンレセプターの新たな作用機構【黒川理樹】
成体でも骨髄細胞から卵母細胞が形成される【神崎 展】
精巣ニッチの新しい制御転写因子ERM【原 孝彦】
トリパノゾーマ類3種のゲノム配列決定とプロテオーム解析【遠藤俊徳】

連載

疾患解明Overview
第16回 ミレニアム・ゲノム・プロジェクトと高血圧【三木哲郎】
クローズアップ実験法
かんたん“ワンステップ”ランダム変異導入法【藤井亮太/北岡本光】
効率的なバイオ実験の進め方
第4回 足りない実験データを早く補充する方法【佐々木博己】
私が名付けた遺伝子
第10回 NELF 〜転写伸長を司る妖精〜【山口雄輝】
ラボレポート−留学編−
Genome Damage and Stability Centre Antony Carr研究室【古谷寛治】

関連情報

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  • 【本書名】実験医学:血管形成の分子メカニズム〜発生・がん・再生プログラムから多角的に解き明かす
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