実験医学 2016年1月号 Vol.34 No.1

新薬認可で治療革命の幕開け がんのウイルス療法

がん細胞だけを破壊する組換えウイルス その作用機序と開発動向

  • 藤堂具紀/企画
  • 2015年12月18日発行
  • B5判
  • 161ページ
  • ISBN 978-4-7581-0147-9
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

細胞を破壊しながらウイルス複製を行うウイルスであれば,基本的には,どのウイルスでもウイルス療法に応用できる.しかし,実用的ながん治療用ウイルスを得るために,遺伝子工学技術を用いてウイルスゲノムを「設計」して,がん細胞ではよく複製しても正常細胞では全く複製しないウイルスを人工的につくることが重要である.野生型や自然弱毒型ウイルスがそのままがん治療用ウイルスにはなりえないことは,1950〜60年代に行われた多くの臨床研究で実証済みである.世界では,現在,さまざまなウイルスが開発に用いられているが,ウイルス療法と一口にいっても,実際には,用いられるウイルスの元来の性質が活かされて,ウイルスごとに特徴のあるウイルス療法になる.

臨床研究で有望な結果を出し始めている革新的がん治療法。米国での初承認に続き様々なウイルス種で臨床化を目指した研究が行われています。がんとウイルスの特性を最大限活かした巧妙なメカニズムは基礎研究者も必見

目次

特集

新薬認可で治療革命の幕開け がんのウイルス療法
がん細胞だけを破壊する組換えウイルス その作用機序と開発動向
企画/藤堂具紀
概論ーウイルス療法の夜明け【藤堂具紀】
細胞を破壊しながらウイルス複製を行うウイルスであれば,基本的には,どのウイルスでもウイルス療法に応用できる.しかし,実用的ながん治療用ウイルスを得るために,遺伝子工学技術を用いてウイルスゲノムを「設計」して,がん細胞ではよく複製しても正常細胞では全く複製しないウイルスを人工的につくることが重要である.野生型や自然弱毒型ウイルスがそのままがん治療用ウイルスにはなりえないことは,1950〜60年代に行われた多くの臨床研究で実証済みである.世界では,現在,さまざまなウイルスが開発に用いられているが,ウイルス療法と一口にいっても,実際には,用いられるウイルスの元来の性質が活かされて,ウイルスごとに特徴のあるウイルス療法になる.
遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスⅠ型【福原 浩,藤堂具紀】
単純ヘルペスウイルスⅠ型(HSV-1)は,強力な殺細胞作用や血中抗体の存在で治療効果が下がらないこと,効率のよい抗がん免疫の惹起など,がん治療に適した多くの利点を有している.加えて,接触感染しか感染経路がないヒトを自然宿主としたウイルスで,体外で容易に不活化されるため,環境への影響がゼロに等しい.これらのことから,世界的に,HSV-1のウイルス療法実用化が他のウイルス種と比べ,最も早く進んでいる.最近欧米では,第二世代のがん治療用HSV-1が悪性黒色腫を適応疾患として先進国初のウイルス療法薬として承認された.わが国でも,第三世代のがん治療用HSV-1であるG47Δの早期承認を目指して臨床開発が進められている.
テロメラーゼ標的化がん治療・診断用アデノウイルス【田澤 大,香川俊輔,重安邦俊,藤原俊義】
アデノウイルスは本来ヒトの細胞に感染・増殖し,最終的に感染した細胞をさまざまな機序により破壊する.近年の遺伝子工学技術の進歩により,アデノウイルスの増殖能にがん選択性をもたせることで新たながん治療薬としての臨床開発が進められている.本稿では,われわれが独自に開発したテロメラーゼ活性選択的に制限増殖するアデノウイルス製剤を用いたがん治療法・診断法に関する研究成果や臨床応用について概説する.がん細胞の無制限な増殖能に関連するテロメラーゼを標的とすることで多くのがん患者に対する治療・診断技術の開発が期待される.
多因子増殖制御型アデノウイルスの開発と実用化の展望【小戝健一郎】
腫瘍特異的プロモーターでウイルス増殖を制御する制限増殖型アデノウイルス(CRA)は,高度のがん特異化が可能で,高い安全性と有用性をもつ.われわれは,がん特異性をさらに向上,治療遺伝子も搭載,ウイルスゲノム改変が可能な「多因子制御によるCRA」(m-CRA)の効率的作製法を独自開発した.全がん種を適応可能なサバイビン反応性m-CRA(Surv.m-CRA)は,がん幹細胞への強力な治療で従来技術へ,がん特異性と治療効果の両面で競合技術に,優位性がある.難治性の進行性悪性骨軟部腫瘍に対するSurv.m-CRAのfirst-in-humanの医師主導治験を本年度開始予定である.
麻疹ウイルスを用いた腫瘍溶解性ウイルス療法【甲斐知惠子】
麻疹ウイルスは,感染によって融合性巨細胞を形成して細胞を死滅させる強い殺傷能力をもち,細胞質内のみで増殖するので染色体に影響をおよぼさない.また,腫瘍細胞で特異的に発現する膜タンパク質を認識し,感染する特徴をもっている.そのうえ,遺伝子改変技術もあるため,腫瘍細胞への特異性をより高めたり,マーカータンパク質を発現させるなどのさまざまな工夫をしたウイルスをつくることができる.このような利点から,近年,腫瘍溶解性ウイルスとしての開発研究が急速に進んでいる.新しい腫瘍治療法への応用をめざした開発状況を概説する.
腫瘍特異的に増殖する遺伝子組換えワクシニアウイルス【中村貴史】
ワクシニアウイルスは,過去に天然痘(痘瘡)ワクチンとしてヒトに使われた実績と近年の遺伝子組換え技術の進歩が組み合わさり,がんウイルス療法に応用されている.ワクシニアウイルスは,広範な腫瘍細胞に感染でき,非常に強い腫瘍溶解性を発揮し,さらに血中を介して腫瘍に到達でき,治療遺伝子を運ぶベクターとしての能力も高いなど,がんウイルス療法において多くの利点をもっている.その一方で,正常組織における弱い増殖性を維持しているため,安全性の観点より腫瘍組織でのみ増殖させる改良が必須となる.本稿では,腫瘍特異的に増殖する遺伝子組換えワクシニアウイルスの開発と進捗を中心に紹介する.
コクサッキーウイルスを用いたウイルス療法の開発【谷 憲三朗】
コクサッキーウイルスはプラス鎖RNAウイルスであり,コクサッキーウイルスA(CVA)とコクサッキーウイルスB(CVB)の2群があり,ヒト病原体として従来より研究が進められてきた.一方で,CVA21を抗悪性腫瘍薬として用いる研究が近年オーストラリアを中心に活発に進められてきている.われわれは独自にCVB3についての基礎研究を進めてきており,その抗悪性腫瘍薬としての可能性について報告してきた.特に最近の研究で,CVBの安全性をmiRNA技術で高めることに成功し,臨床試験実施に向けた検討を行ってきている.本稿ではCVA21の臨床試験状況およびCVB3の臨床応用に向けたわれわれの取り組みについて紹介させていただく.
増殖型レトロウイルスベクター【稲垣亮仁,笠原典之】
増殖型レトロウイルスは選択的にがん細胞に感染するため,腫瘍内で効率よく増殖することができ,導入遺伝子の安定的な長期発現を可能にしている.薬物前駆体活性化遺伝子を発現する増殖型レトロウイルスを用いた自殺遺伝子治療は悪性脳腫瘍をはじめとする多くの他臓器がんに対しても有効である.本稿では増殖型レトロウイルスを用いた前臨床研究から,米国内の多施設にて同時に行われている臨床試験を紹介する.
フォーラム基礎研究を臨床に進めるために知っておきたいこと
  • 日本の遺伝子治療臨床試験の指針と審査体制【島田 隆】
  • 日本の遺伝子治療開発の制度改革【宮田俊男】
  • ウイルス療法のガイドライン・ガイダンスについて【長村文孝】
  • ウイルス製剤の安定製造【丸山裕一,三森重孝】
  • ウイルス療法を研究してみたい,というときの心得【藤堂具紀】

Update Review

環境DNA解析のインパクト【岩崎 渉,佐藤行人,源 利文,山中裕樹,荒木仁志,宮 正樹】

トピックス

カレントトピックス
マウスES細胞から胃組織の作製【野口隆明,栗崎 晃】
CaMKⅡのキナーゼ活性と構造的役割の相互作用によるシナプス構造可塑性のゲート機構【林 康紀,金 カラム,岡本賢一】
デクチン1シグナル阻害による,腸内細菌叢を介した炎症抑制【唐 策,岩倉洋一郎】
脊髄後角におけるSTAT3依存的なアストロサイト活性化は痒みの慢性化に必要である【白鳥美穂,津田 誠】
News & Hot Paper Digest

連載

クローズアップ実験法
CRISPR/Cas9でHDR効率を高める方法【丸山 剛】
最終回 教えて!エコ実験RETURNS
データベース,ウェブツールで遊ぼう【村田茂穂】
テツヤ、留学生活はどうだい。
I’m sorry ―その真意は?【Kyota Ko, Simon Gillett】
Campus & Conference探訪記
細胞老化研究が巡礼の地から世界へ【高橋暁子】
ラボレポート ―留学編―
成人急性リンパ性白血病治療の真相を求めて―Johann Wolfgang Goethe University【志村華絵】
Opinion ―研究の現場から
博士の就職活動「未」体験記【野崎智裕,猪川 亮】

特別掲載記事

カンファランス報告
The 2nd Diabetes Research Innovation Symposium 2015―糖尿病治療の新しいStrategy 【主催・提供/日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社】

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  • 【本書名】実験医学:新薬認可で治療革命の幕開け がんのウイルス療法〜がん細胞だけを破壊する組換えウイルス その作用機序と開発動向
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