実験医学 2017年3月号 Vol.35 No.4

がん免疫療法×ゲノミクスで変わるがん治療!

バイオマーカーの確立、治療抵抗性機構の解明による個別化がん免疫療法へ

  • 柴田龍弘/企画
  • 2017年02月20日発行
  • B5判
  • 137ページ
  • ISBN 978-4-7581-0161-5
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

がん免疫療法の革新によって,われわれはがんに対する新たな武器(=知識)を手に入れつつある.しかしがん免疫研究領域はまだ未解明な部分も多く,ゲノミクスを含めた新たなアプローチによってこれまでの常識を覆す発見や画期的な治療薬が生まれる可能性が十分にある宝の山である.がんのみならず広く多くの研究者や臨床医の方々に本特集号を手にとっていただき,今まさに「炎上中」のこの分野に興味をもっていただければ筆者としては望外の喜びである.

今がん研究者が最も注目を集めるがん免疫療法.がん免疫の多様性を紐解くため「ゲノミクス」の視点を取り入れた研究をご紹介.免疫微小環境やTCRレパトアの解析,さらにクリニカルシークエンスを利用した次世代へと向かうがん免疫療法の今をご体感ください!

目次

特集

がん免疫療法×ゲノミクスで変わるがん治療!
バイオマーカーの確立、治療抵抗性機構の解明による個別化がん免疫療法へ
企画/柴田龍弘
序にかえて─個別化がん免疫療法の実現に向けたゲノミクスの役割ーがん免疫のbiologyをわれわれはまだ十分に理解できていない【柴田龍弘】
がん免疫療法の革新によって,われわれはがんに対する新たな武器(=知識)を手に入れつつある.しかしがん免疫研究領域はまだ未解明な部分も多く,ゲノミクスを含めた新たなアプローチによってこれまでの常識を覆す発見や画期的な治療薬が生まれる可能性が十分にある宝の山である.がんのみならず広く多くの研究者や臨床医の方々に本特集号を手にとっていただき,今まさに「炎上中」のこの分野に興味をもっていただければ筆者としては望外の喜びである.
Overview─Immunogenomicsのインパクト【加藤大悟,中村祐輔】
Immunogenomics(免疫ゲノム学)はがん領域に限らず,自己免疫疾患,臓器・造血幹細胞移植,アレルギーなどの免疫・炎症反応が関与する疾患などの根源的理解に必須の研究分野となりつつある.次世代シークエンサーの進歩によって,T細胞受容体,B細胞受容体などの網羅的な解析や免疫関連分子の解析が可能となった現在,Immunogenomicsは病態の解明やそれに基づいた新規治療法の開発にとどまらず,患者ごとの治療選択,病勢のモニタリングなど個別化医療の実現に大きく貢献することは確実である.本稿では,Immunogenomicsの現状と今後の課題について具体例を挙げて概説する.
がんゲノムから見たがん細胞の非自己性ー宿主免疫機構とがんゲノムの相互関係の理解【柴田龍弘】
シークエンス解読によってがんゲノムの全体像が明らかになるに従い,宿主免疫機構とがんゲノムの間には多様な相互関係があることが明らかとなってきた.とりわけ免疫活性化の引き金となる突然変異由来の新生抗原(neoantigen)の量は免疫療法(免疫機構の活性化・効率化)の適応において重要な分子情報となる.しかし高精度な個別化がん免疫療法の実現には,クローン進化に伴うneoantigenの時空間的多様性,免疫回避ドライバー遺伝子やエピゲノム免疫制御といった多面的ながんゲノム情報を統合した,がん細胞の「非自己としてのあり方」を理解する必要がある.
がんドライバー遺伝子としてのPD-L1の再発見【片岡圭亮,小川誠司】
近年,PD-1/PD-L1経路阻害がさまざまながんに対して有効であることが明らかとなり,がん免疫が注目を集めている.しかし,いまだにがん細胞が免疫を回避するしくみの理解は不十分であり,特に遺伝学的機構については不明な点が多かった.最近,われわれはPD-L1の3′-UTR(3′非翻訳領域)異常がさまざまな悪性腫瘍に存在し,免疫回避を促すことを明らかにした.この結果は,PD-L1が遺伝子異常により活性化されて,がんの進展に直接関係するドライバー遺伝子として機能する側面をもつことを示している.本稿では,PD-L1 3′-UTR異常を中心に,悪性腫瘍におけるPD-L1高発現をもたらす遺伝学的機構について概説する.さらに,PD-L1以外の免疫回避に関連する分子についても述べる.
HLAタイピング・TCRレパトア解析による免疫ゲノムプロファイリング【井元清哉,山口 類,水野晋一,中川英刀】
次世代シークエンスデータを用い,HLA遺伝子座領域の詳細な解析が可能となった.がん細胞に対する免疫監視機構の解析として,アミノ酸置換を伴う体細胞変異から生じるがん抗原を探索できるデータ解析技術が開発されている.また,誘導されている細胞傷害性T細胞のTCRレパトアも同様に解析できるようになった.このようなHLAからTCRを含む免疫ゲノムプロファイリングと臨床情報との関連を明らかにすることが次の課題である.がんの個々の免疫学的特性を理解する試みが大きな注目を集めている.
がん免疫微小環境のシングルセル解析で何がわかってきたか【青木一教】
がん組織が細胞間のネットワークを介して多様な免疫抑制環境を構築し宿主の免疫系から逃避していることは,免疫療法に対する治療抵抗性・耐性獲得の原因となっている.しかし,その細胞間ネットワークを解明しようとしても,がん組織内で各種細胞が不均一(heterogeneity)であるという問題に突き当たる.この問題を克服し,がん細胞,微小環境,免疫状態を網羅的に評価する技術として期待されているのが,シングルセル解析である.今,腫瘍免疫の分野で,シングルセル解析によってどのようなことが明らかとなりつつあるか紹介する.
大規模がんゲノミクスデータの再解析による免疫微小環境解析【石川俊平】
主にがん細胞の進展過程における変化を解析の目的として取得されたがんゲノミクスデータも免疫環境という視点で再解析することにより新たな結果が得られている.ウイルスに起因するがん抗原やneoantigenの総数だけでなく特定のゲノム変異がCTLの活性に影響を及ぼすことが明らかになってきた.また免疫についても一元的な指標ではなく,トランスクリプトームデータから免疫・炎症細胞の構成を推定し免疫微小環境特性の正確な理解をすることが可能となってきている.さらに,TCRのレパトア解析についてはRNA-seqデータからもCDR配列を得てその全体像の概要を把握することが可能となっている.
免疫療法のバイオマーカー探索に向けたがんクリニカルシークエンシング【杉山栄里,西川博嘉】
現在,がん免疫療法のなかでも免疫チェックポイント阻害薬を用いたがん治療法の開発は目覚ましい発展を遂げている.その治療効果を予測するバイオマーカーの候補として,抗PD-1抗体療法ではPD-L1などのリガンドの発現がよく用いられているが,がん細胞の遺伝子異常数(mutation burden)がより抗腫瘍免疫応答の本態を間接的に表しているバイオマーカーとして注目されている.mutation burdenは抗腫瘍免疫応答を誘導するneoantigensの数を間接的に評価できる方法として有用な可能性が示唆されており,免疫チェックポイント阻害薬との効果の相関について報告が相次いでいる.本稿では,ゲノムシークエンスによる免疫療法のバイオマーカー探索について述べる.
ゲノム解析によるがん免疫チェックポイント阻害療法の耐性機序の解明【小谷 浩,矢野聖二】
がん免疫チェックポイント阻害療法は決して奏効率が高い治療法とは言えないが,治癒を期待できる例や幅広いがん種に対して一定の割合で有効性を示しており,非常に期待が高く,これまでに類をみないほどの速度で臨床開発が進んでいる.しかし,いまだ治療対象となる患者選択に有用な効果予測因子となるバイオマーカーは明らかとなっていない.そのなかで,異なる免疫チェックポイント阻害薬でも共通した耐性機序が報告されてきている.本稿では,ゲノム解析によって徐々に解明しつつある耐性機序に関して概説する.

連載

News & Hot Paper Digest
視床下部の体温中枢で温度センサーとしてはたらくタンパク質【宮道和成】
代謝中間体の修飾を担ういち酵素ががんの標的分子となり得る?!【古久保哲朗】
もっと光を!T細胞の光感受性【柏木 哲】
IoMTは医療におけるイノベーションを起こせるか?ーResearchKitを用いた臨床研究の有用性【猪俣武範】
国際化する未診断・希少疾患研究の今ーThe 4th Conference of the Undiagnosed Diseases Network Internationalに参加して【山本慎也】
カレントトピックス
ATG結合系はオートファゴソーム内膜の分解に重要である【小山-本田 郁子,坪山幸太郎,水島 昇】
新奇な体験によって日常の記憶が増強するメカニズム【竹内倫徳】
A型肝炎ウイルスの宿主動物域および病原性はMAVS依存性である【平井-結城 明香,Stanley M. Lemon】
アフリカツメガエルの異質四倍体ゲノムの進化【近藤真理子,平良眞規】
Trend Review
改正個人情報保護法でゲノム研究はどう変わるか?ー個人識別符号・要配慮情報としてのゲノムデータ【清水佳奈,山本奈津子,川嶋実苗,片山俊明,荻島創一】
Update Review
ミトコンドリアダイナミクスの最前線ー脂質との関係を中心に【足立義博クリストファー,村田大輔,飯島美帆,瀬崎博美】
クローズアップ実験法
塩基変換型ゲノム編集技術,Target-AIDの利用法【西田敬二】
いま、がんのクリニカルシークエンスがおもしろい!
がん多様性に対応するctDNAマーカーーctDNAによる担がん患者の多様性の評価について【﨑村正太郎,三森功士】
Campus & Conference 探訪記
DNA複製―組換え―修復研究の新たな夜明けー10th 3R International Symposiumに参加して【崎山友香里,加生和寿】
予防医学の扉を開く 食品に秘められたサイエンス
栄養の視床下部での感知と糖代謝への作用【井上 啓】
ラボで実践! コミュニケーション術
先生,あの学生とは一緒に研究できません…①【竹本佳弘】
つながる、産と学の手
「官」の視点ーオールジャパンでの医薬品研究開発を加速する,AMEDの産学連携の新しい取り組み【国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)】
ラボレポート独立編
オックスフォードでトリパノソーマ研究ーDepartment of Biochemistry, University of Oxford【秋吉文悟】
Opinion
がん研究の明日を担う人材育成とは?【吉田 剛】

関連情報

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  • 【本書名】実験医学:がん免疫療法×ゲノミクスで変わるがん治療!〜バイオマーカーの確立、治療抵抗性機構の解明による個別化がん免疫療法へ
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