雑誌『レジデントノート』に掲載された「科学で見る恋愛講座」をWEBでも順次公開してまいります!.
「つり橋のうえでドキドキすると,恋愛感情と勘違いしやすい」 このような誰が言いだしたのかわからない胡散臭い話を,一度は聞いたことがあるでしょう.この「愛のつり橋効果」は単なる空想話ではなく,実際に心理学の研究で発表されたものです1).なんと,恋愛心理にもエビデンスがあるんですね! 社会心理学では,恋愛を研究対象として,数々の報告がなされています.今回は,恋愛心理学のごく一部をご覧いただきましょう.それらを駆使すれば,意中の相手を振り向かせることができる!…かもしれません(毎回,同じことを言ってるなぁ).
気になる異性がいたとしても,遠くから見ているだけでは,思いは通じません.どうにかしてお近づきになりたい,と考える人には,まず「単純接触効果」をおすすめします.これは,人は普段よく見かける人に対して,好意を抱きやすくなるという研究結果からきたものです2).人は見知らぬ他人に対し警戒心を強めますが,よく見かける人には警戒心を弱める心理が働き,その結果,好意を抱くようになります.つまり,院内に気になるスタッフがいれば,その病棟や部門へ足しげく通うことが効果的なのです(さらに臨床研修も充実し,一石二鳥!).
もちろん顔を合わせるだけでは,ある程度の好意は得られても,恋愛には発展しません.もう一歩深い関係をめざすのであれば,「好意の返報性」が効果的です.これは,人は自分に好意をもつ人を好きになりやすいという特性で,恋愛関係において特に効果が出やすいのです3).要するに,人から「好きだ」と言われるだけで,その人のことを好きになりやすくなるのです.直接「好きだ」と伝えるのはストレートすぎますが,相手の容姿やふるまいが「素敵だ」と褒め,努力している姿を「尊敬している」と伝えるだけでも,間接的に好意を表現しており,好意の返報性が得られます.一方,相手をからかったり,冗談を言ったりして,場を和ませることが得意な反面,相手に好意を伝えるのが下手な人は,要注意です.相手が冗談に対して嫌悪を感じると,嫌悪の返報性も存在するため,恋愛に発展する機会をどんどん失うことになります.
単純接触効果と好意の返報性は,恋愛に限らず,仕事での対人関係でも成立するため,ぜひ知っておいてほしいテクニックです.
最新の研究では「レッド」を語らずして,恋愛心理は語れません.そのくらいレッド,つまり赤色が恋愛に大きなインパクトを与えます.簡単に言うと,女性が赤色を身につけると,男性から見たときの魅力が高まることが証明されています4).ほかにもさまざまな実験が行われ,赤色の服を身につけるのはもちろんのこと,その人の背景や装飾品などを赤色にすることでも,本人の魅力を高めることがわかっています.なぜ,赤色が女性の魅力を高めるのか? それは,動物のメスのなかに,発情期になると体の一部を赤く変化させるものがおり,この発情期の名残が人にも受け継がれ,赤色を性的な魅力として感じるのではないか,と考えられています.このことから,意中の男性にアタックするときは,白い白衣を着た仕事中よりも,赤い衣服や装飾品を身につけたプライベートの方が,成功率があがると思われます.ぜひお試しあれ.
ハリウッド映画を見ていると,美しい女性が悪者を誘惑し,機密情報を盗み出すというお決まりの展開があります.それもそのはず,男性は女性のセクシーな誘惑にめちゃくちゃ弱いことが,実験によって証明されています.どのように実験したのか気になるところですが,レジデントノート上では刺激が強すぎるので,参考文献にとどめておきます5).男性陣は,ハニートラップにくれぐれもご注意ください.
ただ,私の真意はそこではありません.同様の反応を示す「ボディタッチ」で説明しましょう.男性は女性からのボディタッチを「好印象」や「相手からの好意」ととらえやすいのに対し,女性は男性からのボディタッチの多くを「不快」と見なします.男性が好ましいと考える勘違いが,女性を不快な気持ちにさせる一例であり,これが社会問題へと発展したものが「セクハラ」です.セクシーな誘惑に喜びを感じるのは男性限定であり,逆に女性は不快に感じることを,男性陣は肝に銘じておきましょう.
恋愛を対象とした心理学を学べば,男女の共通心理から異なる心理まで理解でき,恋愛関係を築くうえで有意義なものになるでしょう.ただ,恋愛成就のために,ありとあらゆる心理学を駆使するのは,仮面をつけて他人になりすまして恋愛をするようなもので,少し残念な気もします.恋愛成就の次のステージでは,結婚,出産・育児,老後と続き,人としての中身や器の大きさが求められます.小手先の恋愛テクニックはほどほどにし,心身を磨き,ありのままの自分を受け入れてもらえて成就した恋愛こそ,幸せな関係が長く続くのかもしれませんね.