日本救急医学会代表理事の行岡哲男先生も越前カニをかぶって学会を応援された(右).林先生(中央),今先生(左)とともに.手前は学会オリジナルキャラクター「越前あい」のパネル.記念写真の人気撮影スポットに.
日本救急医学会中部地方会学術集会が林寛之先生を大会長に開催された.元来「良い教育がないと良いERにならない」とおっしゃる林先生のこと.今学会では「学会は会員のためにあるもの.実臨床にすぐに活かせる“教育”をテーマにして,会員に『来てヨカッタ』と言われるような学会にしたい!」という林先生の思いのもと,「こんな学会見たことない!」と銘打ち斬新なプログラムやサービスが提供された.
特に大きな見所として,①教育講演の充実,②TED(teaching in emergency department),③特別企画があった.
教育講演「これからの医療を語る」の山中先生.
柱となる教育講演は,今明秀先生(八戸市民病院),徳田安春先生(地域医療機能推進機構),山中克郎先生(諏訪中央病院),岩田充永先生(藤田保健衛生大学),寺澤秀一先生(福井大学地域医療推進講座),林寛之先生の6名の先生により行われた.診療に密接なテーマであるのはもちろん,人の集中力が持つのは10分ということで,10分に一度は笑いをとるなど決して飽きさせない講演の連続であった.
今明秀先生の「劇的救命」では,かつては助けられなかったPTD(preventable trauma death)の患者さんが初期診療の標準化により助けられるようになってきたこと,その上でさらなる改善のためには,病院前の気道管理や,救急外来での胸腹部外傷処置が重要になることが話され,止血処置やダメージコントロール手術の方法が映像豊富に解説された.また,より早い治療開始のために八戸で始められたドクターカーの最新型を使って,PCPSのできる緊急手術室を移動先の屋外で設置する様子が紹介された.
寺澤秀一先生は,「ER診療パールズ」と題し,救急外来で患者さんの気持ちに寄り添う,先生流の外来術を実演つきで紹介された.「患者さんを愛する家族もまた一人の患者さんと思って接し,ご家族の心を救えるかを考える」「患者さんやご家族を褒める」「帰してよいか微妙な患者さんの場合は翌朝に必ず電話をかける」等々.また,患者さんとの関係のみならず,救急の仲間や研修医,救急隊との良好な関係づくりの大切さも語られた.
神川先生のTED「しびれ…と申しましてもいろいろ…」.
若手医師の発表の場として,多数の応募の中から事前のスライド審査で選考された6名の医師がそれぞれ10分間の発表を行った.
神川洋平先生(福井大学医学部附属病院)は「しびれ…と申しましてもいろいろ…」のタイトルで,症例報告を落語で演じられた.2人の医師の軽妙な掛け合いを通し,しびれの鑑別や陥りやすいピットフォール,画像診断にテイクホームメッセージまで網羅した発表であった.しっかりオチまでついて,まったく新しい形での症例報告となった.
中島幹男先生(東京都立広尾病院)の「君にはLの字が見えるか?」では,胸部X線にて心陰影の裏にあるシルエットサインを見るための,先生オリジナルの方法が紹介された.
新しい指導法として研修医や医学生を対象とした、参加型のゲームも企画された.
手分けして難題に挑む脱出ゲームの参加者たち.
研修医対象の脱出ゲーム「謎解きプログラム〜狙われた地方会からの脱出!」では5人1組・全6チームが,学会場に時限爆弾が仕掛けられたという設定のもと犯人探しと爆弾の解除に挑んだ.まずは縫合手技のテストに合格しないと捜査を開始できず,犯人の逃走経路のヒントとなるクロスワードパズルも感染症・病理・解剖・画像診断・一般常識など,あらゆる知識を総動員しないと解けない難問ぞろいであった.
「ER医はさまざまな問題を診る必要があるので,幅広い分野の知識を取り入れゲームを作成した」と話されたのは企画責任者・山口つかさ先生(大垣市民病院).広島から参加した初期研修医は「チームで力をあわせて難問に挑むことができ,他施設の研修医はこんなことまで知っているのか,と良い刺激になった.ノウハウを学んで,このようなプログラムを自分たちの施設でも企画してみたい」と熱く語った.
コスプレでRPGに参加した医学生と,越前カニをかぶった林先生.
「メディカルRPG!〜医学知識でRPG世界を救え」と題されたRPGゲームは医学生が対象.1チーム3人で構成され,ゲームでは「アナフィラキシーショックに陥った際のアドレナリンの投与量は?」「吸血鬼のモデルとなったのは何の病気?」などの幅広い医学知識が出題され,スタッフが解説を加える.途中に林先生や徳田先生,寺澤先生等がキャラクターとして登場し,オリジナリティ溢れた構成となっていた.司会スタッフのフランクな話ぶりに,会場は終始和やかムード.参加者にとっては,ゲームで楽しく医学知識を学べる貴重な機会となったのではないだろうか.
キャラクターのピンバッチが販売された.そのほか,福井名物の焼き鳥も配られた.
「プログラムに魅力を感じて参加した」という方が多く,地方会であるにもかかわらず,北海道や東北・関東・関西・中国地方など遠方からの参加があった.人数は,医師のほか,医学生や看護師,救急隊員を含めて,スタッフの想定以上の700名以上.「思った通り勉強になった」「楽しかった」と,参加者もスタッフも笑顔の会となった.
大いなる交流の場となり,また,教える意欲にあふれた工夫されたプログラムの数々で,持ち帰る学びの多い,まさに“教育”を実現した学会であったのではないだろうか.
(編集部/保坂早苗,清水智子,加藤里英)