開催日:2017年10月24日(火)〜26日(木) 会場:リーガロイヤルホテル大阪,大阪国際会議場 大会長:嶋津岳士 先生(大阪大学大学院医学系研究科 救急医学 教授)
第45回日本救急医学会総会・学術集会が嶋津岳士先生を大会長に開催された.テーマは「LOVE EM(Emergency Medicine)!:救急への想い」で,救急領域の最新の知見についてはもちろん,若手医師へ向けた救急医療の魅力や情報の発信にも力を入れていた.
数ある演題のなかでも特に若手の先生へ向けた企画である,モーニングセミナー「症例検討会-救命救急医ドクターE-」と本大会のテーマをタイトルに冠する特別企画「Love EM! 救急への想い」についてお伝えしたい.
米国の救急専門医を講師に,若手救急医が発表する英語の症例検討会がモーニングセミナーとして3日間通して行われた.朝7:30からはじまるセミナーだが,若手からベテランまで多くの参加者を迎えての討論会となった.
画像所見や検査値のスライドを食い入るように見つめる参加者,自らフロアを回って議論に火をつける司会の木下喬弘先生(大阪急性期・総合医療センター 救急診療科),ときには講師の先生からの質問も飛び出し,発表者だけでなく会場全体に均しく熱が入っていた.また英語が多少苦手であっても,要所要所で入る木下先生の日本語のフォローが参加者に安心感を生んでいた.総括で入る米国の救急専門医からのコメントには,持ち帰れるtipsも多かったのではないだろうか.
このセッションを通して,若手救急医が慣れない英語や鋭い質問に奮闘しながらも,何よりも楽しみながら取り組んでいる様子が印象的だった.複雑な症例を読み解いたときの喜びもひとしおなのだろう.
この企画では研修医からベテランまで,救急医療に対する熱い想いが語られた.講演中に聴講者が発表スクリーンにコメントを投稿できる新しい取り組みも試みられ,フロアからの感想や演者への質問など,双方向的な講演に華を添えた.3日間で100近い演題があり,救急医療のリアルと今後の展望,印象に残った症例と得た教訓,キャリアプラン,救急医のアイデンティティとやりがい,地域への貢献,海外の状況など,救急医療にかかわるあらゆることを若手医師へ向けて発信していた.さまざまな方向から「救急医療のいま」を知ることができるのは想像に難くないだろう.ゆえに救急専門医をめざす先生はもちろん,進路を決めていない,もしくは他科をめざす先生にとっても,将来のための大きな糧となりうる内容であった.
まず話題になったのは,救急医のアイデンティティについてである.臓器の専門家ほどの明確さはないことから,救急医をめざすことに不安を感じる読者もいるのだろう.だがそんな思いをよそに,先生方各々がさまざまなアイデンティティを感じ,目標を掲げながら,日々診療しているということがよく伝わってきた.とにかく何でも受け入れる,緊急性の高い人を見落とさずにすくい上げる,救急体制を整えてスムーズな医療を提供する,市民を教育して救命率を上げるなど,救急医のできる範囲が広大ななかでも行く先をしっかり見据えている姿は,一市民の立場から見ても心強い限りである.先生方が考えているさまざまなビジョンを直接伺えたことは,大変貴重な機会であった.
他科も経験されている先生方からは,救急医として働く際に磨かれたリーダーシップ,コミュニケーション能力,判断力,応用力などはどこへいっても重宝するという話を聞けた.また,逆に他科で身につけたスキルは救急において初療の判断を早め,相互的にはそれぞれの視点をもっていると新たな気づきが生まれるとのことだった.救急医を経験して磨かれる力は今後のキャリアを築いていくうえで,自信につながるようだ.
さらには救急クリニックを開業したり,救急隊の教育に携わったりと,さまざまなキャリアモデルとなる先生がすでに何人も出てきており,そのような先生からも多様なお話を伺え,よい道標となったことだろう.
海外での経験を積まれた先生は違う国で医療に携わることで,サービスとしての医療,つまりは医療制度やより多くの患者さんを助ける仕組みについて知見を大いに広げていた.現在も米国の救急医として勤務している先生も登壇し,日本との救急医療体制の違いなどを聴くことができた.外国側のメリットが強調されることも多い話題だが,日本も含めた各国の医療制度のもつ明らかなメリット・デメリットを具体的に知ることができた.日本の医療をさらによくしていくためには海外の制度からよい点をどんどん吸収・昇華していくことが重要であり,ドクターヘリやドクターカーを例にとれば,患者さんの初療や救命を担う救急医の発想は特に影響が大きいとわかる.
今回の学術大会からは若手への期待を大きく感じた.「ドクターE」では発表と議論の機会を設け,「LOVE EM」では希望を見せ,若手(7〜10年目程度)の座長起用で実力を発揮してもらう,と学会全体を通しての教育熱心さが随所にみられた.特に今回のLOVE EMという大型企画は,研修医の先生方に救急医療の魅力をいろいろな面から感じてもらう画期的なものであった.なお,次回第46回は2018年11月19日(月)〜21日(月),坂本哲也先生(帝京大学医学部 救急医学講座 主任教授)を大会長にパシフィコ横浜で開催される予定だ.
日本でもワークライフバランスが叫ばれたことで,昔のような「救急医は当直で辛い!」という状況では必ずしもなくなってきたようである.若手の皆さんも救急科を実際にのぞいてみると新たな発見があるかもしれない.
(編集部 嶋井 毅)
救急医とは一体どのような医師を指すのでしょうか.集中治療室で重篤な急性疾患の治療を行う救急医もいれば,ERで多様な患者に診断と初期治療を提供する救急医もいます.救急医の活動内容が多彩で,施設によって異なっていることは,研修医の皆さんにとって,救急を専門領域として選ぶうえでの不安材料になっているかもしれません.
本学会では,「Love EM!:救急への想い」をテーマに,これからの時代の救急医療について,さまざまな立場の救急医に熱い想いを語っていただきました.その結果見えてきたのは,多様なキャリアプランの存在は不安材料ではなく,可能性だということです.外科系の修練を求めてもよいし,初期診療の技能を徹底的に磨いてもよい.例え途中でキャリアの変更をしたとしても,救急医として得たさまざまな経験は決して無駄にはなりません.多様性を受け入れることができる救急領域は,若手医師の幅広いニーズに応えられる環境であることを再確認できた学会でした.
研修医の皆さん,魅力あふれる救急の世界に飛び込んでみませんか?
嶋津岳士 先生(大阪大学大学院医学系研究科 救急医学 教授)