実験医学 2013年11月号 Vol.31 No.18

数理的アプローチで迫る がんの本当の姿

新たな治療戦略を描きだせ!

  • 松田道行/企画
  • 2013年10月18日発行
  • B5判
  • 133ページ
  • ISBN 978-4-7581-0121-9
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

これまでのがん研究は,目の前の疑問に答えを得る科学であった.今後のがん研究は,未来を予測する科学へと進化する.新規創薬ターゲットの予測,個々の患者における抗がん剤の治療効果予測,新たな治療プロトコールの提案などがその例である.そのためには,がん遺伝子やがん抑制遺伝子にかかわるこれまでの知識を統合的に説明できる数理・シミュレーションモデルが必要である.現在は,実験科学と数理科学の融合が必要なこの分野をどのように進めて行くのが最もゴールに近いか,まだ多くの研究者が模索している段階である.参加するなら「時は今」の,このフィールドを概観する.

がん研究にいまや必須となった数理的アプローチ・システム生物学的アプローチを紹介.シグナル伝達,突然変異,がん幹細胞,薬剤耐性などにおけるがんの複雑な姿を,モデリング・シミュレーションで解き明かす.

目次

特集

数理的アプローチで迫る がんの本当の姿
新たな治療戦略を描きだせ!
企画/松田道行
概論:予測する科学へ─がん研究における数理と実験の融合【松田道行】
これまでのがん研究は,目の前の疑問に答えを得る科学であった.今後のがん研究は,未来を予測する科学へと進化する.新規創薬ターゲットの予測,個々の患者における抗がん剤の治療効果予測,新たな治療プロトコールの提案などがその例である.そのためには,がん遺伝子やがん抑制遺伝子にかかわるこれまでの知識を統合的に説明できる数理・シミュレーションモデルが必要である.現在は,実験科学と数理科学の融合が必要なこの分野をどのように進めて行くのが最もゴールに近いか,まだ多くの研究者が模索している段階である.参加するなら「時は今」の,このフィールドを概観する.
定量的パラメータで見るがんのシグナルの本当の姿【青木一洋】
がんは細胞内情報伝達系のシステムが破綻した細胞によってひき起こされる病態である.細胞内情報伝達系を反応速度論的に記述し数値解析することで,がんをシステム生物学的に理解し制御することが期待されてきた.しかしながら,実験的に測定された定量的な反応パラメータがそもそも絶対的に不足しているために,予測可能な情報伝達系モデルを現状では構築できていない.本稿では,パラメータの種類と測定方法の最新の動向,さらに定量パラメータに基づく数理モデルによって明らかになったERKリン酸化モデルについて紹介する.
がんシグナル伝達ネットワークの多階層制御【岡田眞里子】
細胞内シグナル伝達系はさまざまながんをひき起こす重要なタンパク質の集合体である.シグナル伝達系では,その翻訳後修飾制御に多くの興味が集まっているが,実際にはこれらの翻訳後修飾の背後には,タンパク質の転写・翻訳やエネルギー代謝など,さらにマルチな反応制御系が潜んでおり,そのネットワークには巧妙な制御のデザインが組み込まれている.最近注目を浴びている,がん代謝や細胞の不均一性なども,これらのシグナル伝達系巨大ネットワークの反応のひずみによって起こると言っても過言ではない.本稿では,シグナル伝達の自己制御のしくみからこの一端を考えてみたい.
がん幹細胞におけるシグナルと可塑性のシステム的解析【後藤典子】
がんの病態は,発症,悪性化,転移,そして治療後の再発というダイナミックな過程である.数理モデルによって,この過程をがん幹細胞説によってよく説明できることが証明されている.数理モデルやシステム的解析は,がんの病態を包括的に理解するために有用である.われわれは,シグナル伝達のシステム的解析を行い,がん幹細胞が,がん細胞やその微小環境であるがん幹細胞ニッチを利己的に操り,生体内に棲みつくしくみの一端を明らかにした.
数学に基づくがんの個別化医療【合原一幸】
複雑な現象を研究するためには,現象の本質を数理モデルで記述してその数学的解析を通して対象を理解することが有力な方法論となる.特に,生命システムに関しても大量の時空間ビッグデータが最近計測できるようになってきているため,このような方法論の重要性が増している.本解説では,医学と関連が深いテーマとして前立腺がんの内分泌療法と動的ネットワークバイオマーカーを取り上げて,その数理モデリングと数理解析を概説することによって,この分野での数理システム的アプローチの有効性を例示する.
シミュレーションによるがん浸潤初期過程の動的理解【市川一寿】
モデリング・シミュレーションの役割は予言にあるとはよく言われるが,実際にはどういうことであろうか? 本稿では,がんの浸潤初期過程において本質的な役割をもつ膜型細胞外マトリクス分解酵素MT1-MMPについての数理モデルとシミュレーションについて述べ,それから導かれる予言や予測がどういうものであるか,さらには実験とのコラボレーションによってそれがどのように発展したのかについて紹介する.本研究は目の前の現象にとらわれ過ぎず,その背後にあるメカニズムを丁寧にモデル化し,さまざまな角度からシミュレーションすることによって可能になったものである.
突然変異の蓄積を含むがんの動態の数理モデリング【波江野 洋】
毎日億という単位で細胞が生まれ死んでいく健常なヒトの体で,がん細胞が正常な細胞からどのようにして生まれて,広がっていくのか? がんとの闘いにおいて早期発見が重要視されているなか,診断以前のがん細胞の動態を突然変異蓄積の観点から数理モデルで理解する研究がここ十数年の間に広がっている.本稿では,大腸がんの発生に関する数理モデル研究と骨髄増殖性腫瘍の起源細胞を推定する数理モデル研究を例にとり,この分野の研究手法を紹介する.今後は実験研究と密に連携をとり,正常組織の分化階層性やダイナミクスの理解,正確な突然変異の効果を詳細に理解し,数理モデルに適用することなどが重要になる.

特別記事 Rasがん遺伝子発見物語 [後編]

ヒトrasがん遺伝子発見への貢献とその後【土田信夫】

トピックス

カレントトピックス
低分子-タンパク質相互作用検出ツール群で薬の標的を探る【春木宏仁】
細胞分裂軸による上皮構造の維持と腫瘍化の抑制【中嶋悠一朗/Matthew Gibson】
獲得免疫系におけるRegnase-1を介した転写後制御の重要性【植畑拓也/審良静男】
IRF8-KLF4転写因子カスケードによる単球分化制御【黒滝大翼/田村智彦】

連載

【新連載】Dr.キタノのシステムバイオロジー塾
[第1講]システムバイオロジーとはなにか?【北野宏明】
生命に魅せられた研究者たちのマイルストーン
未知の生理活性ペプチドへの挑戦:グレリンを中心として【寒川賢治】
クローズアップ実験法
蛍光二次元電気泳動法のポイント【近藤 格】
帰ってきたプロフェッショナル根性論
勇気とイマジネーションと,ちょっとの研究費【島岡 要/吉村昭彦】
教えて!エコ実験 ―工夫&節約のメリハリ研究術
エコプラスミド実験【村田茂穂】
ラボレポート ―独立編―
アメリカでPI になるメリット ―Cincinnati Children’s Hospital Medical Center【吉田 富】
Opinion ―研究の現場から
研究者同士の得意分野を生かし合い,テーマを育てる経験【柴崎宏介】

関連情報

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