亀井三博/著
■定価2,200円(本体2,000円+税10%) ■A5判 ■164頁 ■南山堂※在庫僅少のため電子版をおすすめします
今からちょうど1年ほど前のことだ.連載をはじめるにあたり,私が編集部におずおずと提示した「条件」がある.それは以下のようなものだ.
出版社にとってあまりうれしい要求ではないだろう.でも,担当編集者のスーさんはニコニコして「いいですよ」と言ってくれた.ありがたい.よかった.
なぜこんな条件を出したかというと,ほかでもない,私がこの企画で特に紹介したかった本が,今日取り上げる南山堂の書籍だったからである.つまり,企画が先にあって『私は咳を~』を選書したのではなく,『私は咳を~』を紹介したいがために企画を考えたという順番なのだ.その後,スーさんと企画を練っていくなかで,あの本も紹介したい,あの本も取り上げたいと,どんどん夢が膨らんでいくことになるのだが,そもそもの端緒は『私は咳を~』であった.
私はずっと,亀井三博先生の本をできるだけ多くの人に読んで欲しいと言い続けてきた.
どれか1冊,医書を完読するならばこれ!しかもキャリアの早いうちに読むことが望ましい.医学生や研修医のうちに読めば,きっとその後の診療にすごくいい影響をもたらしてくれる.通読型の医学書を代表する名著.三省堂書店池袋本店などで開催したフェア「ヨンデル選書」でも毎年筆頭で選書してきた.
そして私はもともと,本書を連載の第1回で紹介するつもりだった.ところが,索引項目を選ぶために本書を再読したときに,企画で取り上げるのは後回しにしたほうがいいなと考え直し,紹介順序を後半に回した.そのような手間をかけた理由を説明するにあたっては,やはり,索引を見ていただく必要がある.
では今回の「勝手に索引!」を見て頂こう.いつものように,Webでは「勝手に作った索引」の完全版を公開.
そして紙面では,索引の一部を抜粋しつつ解説を進めていく……のだけれど.
ふと,ダメ元で,編集部に尋ねてみようと思い付いた.今回は,Webだけじゃなくて,紙面にも完全版を載せてみたい.その方が何か伝わるものがある気がする.もちろん,紙幅の都合というものもあるわけで,まずは交渉してみることにする.少々おまちください.
というわけで,今回は完全索引を紙面にも全部載せることになりました! なお,(交渉中)などと書いたが本当は交渉しないでいきなり載せている.原稿初読時のスーさんがひっくり返るところが目に浮かぶ.ごめんね.やりたかったの.文字が小さくて読めないよという人はQRコードからWeb版をご覧ください.
* * *
無事索引をぜんぶ掲載したところで,私が愛する本書を企画の第1回で取り上げなかった理由を述べる.本書は,これまでの中で一番「索引項目が少ない本」なのである.連載第1回でこの項目の少なさはちょっと困る.企画の意図を皆さんにおわかりいただくために,田中竜馬先生の名著1)をはじめとする「比較的項目が多い本」を連載の序盤で紹介することにして,本書にはいったんベンチに下がってもらった.もっとも,項目が少ないとは言ってもこのとおり文字を縮小してなお3ページ以上あり,一般的な索引に比べたらだいぶ多いのだが.
なぜ索引項目が少なくなったのか?それは,本書が真の「通読型の医書」だからである.どこかを抜き出してハイライトすることが難しい.頭から読んでいくことで臨床知の「うねり」がまるごと手に入るような本.辞書的に項目を探して読むタイプの本ではまったくない.
話は少しずれるが,私はこの連載原稿を書くときに,まずお題となる本を頭からずんずん読んでいき,索引項目を蛍光ペンで塗っていく.それを編集部のスーさんに渡して索引を作ってもらう.できあがった索引を眺めつつ原稿を書く.そういう順番でやっている.ところが本書の場合,没入度合いが他の医書と比べて格段に高いというか,ぷはっと顔を上げると何ページもマーキングせずに1つのエピソードを読み込んでしまっていることが多かった.
上記の索引内にはあえて「ピンクのハイライト」をもうけて,どうしても時間がない人はそのあたりだけでも見てごらん,と示してはいるが,本当はその「周り」も全部みてほしい,ていうか索引を上から下まで通読してほしい.そうすることで,本書の醸し出す固有のオーラみたいなものがぼうっと見えてくる.そのオーラに少しでも興味が湧いたら,ぜひ本書を買っていただき,頭から終わりまで通読してほしい.ここまでの説明に説得力を持たせたいがためにこの企画を10回もやってきたようなものだ.流行りのイタリアンレストランのメニューに例えるならば「シェフの強欲パスタ ~どうしてもこれを食べて欲しいから前菜にハラが減る素材を使いました~」みたいなイメージ.
とにかく私はこの本を通読してほしかったのである.ここまで言うって相当だよ.
しかしまあ「全部読んでほしい」のはともかくとして,せっかくの索引企画なのだから,索引からにじみ出てくるものにも言及しておこう.あらためて眺めてみて目を引くのは,「咳」というシンプルな項目に対するサブ項目の多さである.咳に関する本なのだから当たり前? でも,よく読んでみてほしい.
これですよ.これが本書の「索引」なんですよ.膨大な「咳診療のナラティブ」を,ひとことで言いまとめることの不可能性.「まとめて引用してはじめて伝わるゲシュタルト」.初読時の情動をいかに反芻できるか.
というわけでキーワードやポイントを指摘するのが難しい本書ではあるが,あらゆる研修医諸君に役立つであろう本書のキモの1つをご紹介する.私がこれまで読んできた500冊以上の医書の中で,本書は一番わかりやすく「ベイズ推定を用いた臨床診断学」を書ききった本だ.だから読んだらいいよ,って書けば2行で書評は終わるんだけどさ,やっぱりさ,そういうものでは,ないじゃない.