本誌2015年4月号,東京城東病院 総合内科 志水太郎先生のインタビュー記事に収まりきらなかった内容を,ホームページ限定の番外編としてお届けいたします.
太田先生(以下敬称略):私自身やりたいことがたくさん出てくるのですが,時間が足りません.実際,多くの人が時間がないと思っています.でも,志水先生はやりたいことを全部実現しているように見えます.うまく時間を使うコツがあったら教えていただけないでしょうか.
志水先生(以下敬称略):難しい質問ですね.例えば,行き詰まったときに,いろんな人の話を聞くというのはコツかもしれませんね.そうすることで,一気に推進力が上がります.
太田:自分で考えないで人の頭を借りるということですね.
志水:人の頭を借りるというのは,それこそMBA(経営学修士)的にもよくある考え方で,問題解決や,診断能力に関してもそうです.人の頭脳や手を借りると時にスピードが倍加しますからね.
志水:あと,もうひとつは「自分が今やっていることをもっと効率化できないか.もっと効率のいい方法はないだろうか」と方法論自体を考え続けることです.例えば,電車に乗るときに,券売機で切符を買って切符を改札に通しますが,プリペイドカードだったら,そのまま改札を通れますよね.それと同じように,余計な関所を取り除いて効率化することを常に考えるようにしています.
志水:人に教えなければならないけど,自分の勉強時間もほしい場合って上級医になればなるほどありますよね.ほとんどの臨床医がこの問題に悩んでいると思います.この解決策の1つとして,アウトプットとインプットを一緒にします.つまり,自分が勉強したいことをアウトプットする状況をつくるんです.例えば,回診についての原稿を書く場合は自分のやり方を書けば済んでしまいます.この場合は自分は頭を使っていないんですよ.確かにニーズがあるから,書く意義はもちろんあるのですが,自分の勉強には全くなりません.一方,原稿を書いたりレクチャーで研修医に教えたりする場合,自分がまだよくわかっていないことをテーマにすれば,当然インプットしてからアウトプットすることになりますよね.
太田:一緒になったら,効率がすごくいいですね.
志水:私は何かを勉強するときは,その内容を,どうやって,どういうふうに教えるのか,自分がホワイトボードに書いて教える姿を思い浮かべます.インプットと同時に,頭の中で5分間でアウトプットする準備をしはじめているんです.
太田:すぐに教えるリハーサルをするんですね.
志水:そうです.だから,私は病院で持ち歩いている小型のケースにホワイトボード用のマジックが必ず入っています.それは,いつでもどこでもアウトプットできるようにしておくという発想があるんですよ.人に教えるということは知識の定着にもなりますしね.
志水:あと,私は自分で自分用の問題集をつくっています.私は学んだことをメモするときは,必ず疑問系のかたちにしてメモを取るようにしています.例えば,相対的徐脈についての本を読んだら,「相対的徐脈の原因は?」って,「?」にしておくわけです.で,その下に答えを書いておきます.そうすると問題集が出来ていきます.ただのメモで記録するだけだと流し読みしてしまって頭に全く残らないけど「?」を付けておくと,ぱっと読んだときに「えっと」っていう,この「えっと」というアウトプットの頭脳労働があるんですよね.当然,記憶定着にもよい効果があると思います.こういうふうに「?」を1個付けるだけなので,時間もかかりません.これを1つのWordファイルで続けていくと百何十ページになりますが,それでいいんです.一応問題集なので,それをただ見ていくだけで勉強になる.そして,少しずつ問題が増えていくわけです.
講演会とか,勉強会で話を聞くときも同じようにメモをとって問題集にします.その内容がそのまま使えるものだったら,問題集としてメモしますが,知っている内容だった場合は,その話の内容をもとにアイデアノートを取ります.つまり,講演をブレインストーミングの代わりにするんです.二酸化マンガンを媒体にして酸素をつくるように,聞いている話の内容とメモする内容が全然違うこともあります.
私の時間の使い方で工夫らしいこと,といえばこのあたりかもしれません.
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