本コンテンツについて
留学,学会発表,外国人研究者との共同研究…様々なシーンで重要性の高まる英語.月刊「実験医学」誌連載“誌上留学―ラボ英会話のKEY POINTS”では,日本人研究者が知っておきたい伝わるトークの秘訣を,ケーススタディー形式でご紹介しています.
本サイトでは,連載誌面に掲載された英語の「発音」をネイティブの音声・動画で視聴いただけます.「この単語って,こういう発音だったの?!」など,きっと発見があるはず.また,Script全文の対訳もご覧いただけますので,辞書も必要ありません.
Script4「いざ,研究ディスカッション―聞かれた以上のことを答える」
クリスティーンは,小胞体ストレス(ER stress)下のβ細胞でアポトーシスに関する機能を担う「ERAP(endoplasmic reticulum apoptotic protein)」という新規遺伝子について,興味深いデータを得た.小胞体ストレスは,小胞体に入ってきたタンパク質が適切に処理されず,折り畳まれていない/異常に折り畳まれたタンパク質が蓄積した際に生じる,細胞内ストレスの一種である.クリスティーンは自分の発見についてディスカッションするため,ウラノ先生のオフィスで待ち合わせる.
【1】全文のネイティブ音声
【2】全文の対訳
クリスティーントーマス,こんにちは.いま実験結果についてお話する時間はありますか? もしよろしければ,いくつか先生と相談したいことがあるんです.
トーマス(ウラノ先生)やあクリスティーン.もちろん大歓迎です! あなたのEメールから考えるに,アポトーシスに関連する発見があったようですね.
クリスティーンいつもながら的を射ていますね.ご存知のとおり,私は小胞体ストレス下で細胞死をひき起こす遺伝子である可能性があるERAPを解析しています.回復不能な小胞体ストレスは,細胞死をひき起こす,CHOPのようなアポトーシス遺伝子の発現を誘導することが知られています.私の過去の観察では,ERAP発現をRNA・タンパク質レベルの両方で測定し,ERAP発現は小胞体ストレスによって上昇することを突き止めました.そこで今回,小胞体ストレスによってひき起こされる細胞死におけるERAPの役割を研究したいと考えました.ERAPをノックダウンしたところ,小胞体ストレス条件下でイムノブロットを行うと,細胞死のマーカーであるcleaved caspase-3が検出できなくなったのです.私の考え方は正しいでしょうか?
トーマス少し話を戻しましょう.細胞にどのようにしてストレスをかけたのかな?
クリスティーンINS-1 832/13細胞を5 nMのthapsigarginで24時間処理しました.Thapsigarginは小胞体のカルシウムレベルを枯渇させる化学的小胞体ストレス誘導剤です.カルシウムは小胞体のタンパク質折り畳み酵素のいくつかにとって,その正常な機能に必要なので,ストレスをひき起こす訳です.
トーマス今のところ,あなたの考えに同感です。細胞を観察したとき,何か変化はありませんでしたか?
クリスティーン私の勘ですが,これら小胞体ストレス条件下ではINS-1 832/13細胞は死にかけているようです.小胞体ストレス条件下において,ERAPノックダウン細胞はコントロール細胞に比べ,浮遊した死細胞が少なかったのです.
トーマスまず,ERAPをノックダウンした手法について,もう少し詳しく教えてもらえますか?
クリスティーン細胞にはLipofectamine 2000で,コントロールsiRNAか,ERAPに対するsiRNAを導入しました.イムノブロットで測定し,2倍以上のERAPノックダウンを検出できました.またqRT-PCRでも確認しています.
トーマスあなたの発見に関連して,これからどうする予定ですか?
クリスティーン他の手法でアポトーシスを測定したいと思います.細胞をpropidium iodideで標識し,FACS解析で死細胞の染色を計測したいと思います.
トーマス素晴らしい考えを思いつきましたね! 査読者に発見を納得してもらうには,いつでも最低2つの手法でアポトーシスを測定しなければなりません.他に何か私と共有しておきたい考えはありますか? 今のところ,あなたはとてもうまくいっていますよ!
クリスティーン今のところ大丈夫です.先生のフィードバックとご協力に,感謝してもしきれないくらいです.
トーマスどういたしまして.当たり前のことをしただけですよ.