本コンテンツについて
留学,学会発表,外国人研究者との共同研究…様々なシーンで重要性の高まる英語.月刊「実験医学」誌連載“誌上留学―ラボ英会話のKEY POINTS”では,日本人研究者が知っておきたい伝わるトークの秘訣を,ケーススタディー形式でご紹介しています.
本サイトでは,連載誌面に掲載された英語の「発音」をネイティブの音声・動画で視聴いただけます.「この単語って,こういう発音だったの?!」など,きっと発見があるはず.また,Script全文の対訳もご覧いただけますので,辞書も必要ありません.
Script7「聞く・見る・数えるノックダウン―確認を重ねる」
【1】全文のネイティブ音声
【2】全文の対訳
ウラノ先生は今日,siRNAを用いた目的遺伝子の一過性ノックダウンのやり方をクリスティーンに教えるつもりである.ウラノ先生は,Nucleofectorという遺伝子導入技術(Lonza社)を用いてラットのインスリノーマ細胞株にPERKに対するsiRNAを導入してみせる(PERKはERの膜貫通型キナーゼで,UPRというシグナルネットワークの制御にかかわる).クリスティーンは細胞培養室にいるウラノ先生のもとへ遅れて到着する.
クリスティーンこんにちはトーマス.遺伝子導入の準備はできているのですか?
ウラノ先生ええ,準備完了ですよ.INS-1細胞のトリプシン処理をはじめたところです.さて,細胞を数えて,遺伝子導入の1反応あたり200万細胞を使いましょう.まずは私が1回遺伝子導入をしてみますから,次はあなたの番ですよ.計400万細胞が必要ですね.
クリスティーンちょっと質問です.どのように細胞を数えるのでしょう?
ウラノ先生10 mLの新しい培地を加えてトリプシン処理を終わらせましょう.そこから大体10μLの培地をとって,この血球計算盤のチャンバーに乗せましょう.次にその血球計算盤の上にカバーガラスを乗せ,光学顕微鏡下で観察します.
クリスティーンは熱心に耳を傾け,作業をこなす.
ウラノ先生いいでしょう.グリッド上の4つの大きな4×4の四角に入っている細胞の数をかぞえてください.それから4つの平均をとって,1万を掛け算しましょう.その値が,1mLあたりの細胞数になります.
クリスティーン1万と仰いましたか?
ウラノ先生はいそうです.確認は大切ですね.
クリスティーンが細胞計数機を使っているあいだ,ウラノ先生はあたりをぶらついている.
ウラノ先生実験に必要な細胞懸濁液の量を決めるため,400万を細胞計数から決めた数で割り算しましょう.今回の場合,1mLあたり129万の細胞がいますね.ですから,実験には約3.1 mLの細胞懸濁液が必要です.それでは細胞をスピンダウンし,上清を除いて,INS-1細胞への遺伝子導入用にデザインされたNucleofectorキットに付属の特別なNucleofector溶液400μLに再懸濁しましょう.これらのステップが片付いたら,また私をつかまえてくださいね.
クリスティーンは細胞を遠心し,上清を除き,Nucleofector溶液で細胞を再懸濁する.クリスティーンは作業終了をウラノ先生に知らせる.
ウラノ先生いいですね.では,細胞に遺伝子導入を行うためNucleofectorの機械を使いましょう.私たちが使っているNucleofectorのキットには,キュベットと使い捨てのプラスチックピペットが付いています.遺伝子導入のために3μgのsiRNAと,2mLの培地を加えた6cm培養プレートを2つ準備しましょう. Nuclofector溶液に懸濁した細胞を100μLとり,3μgのsiRNAを加えてください.混合液を添付のキュベットに入れて,キュベットを機械の中にはめます.次に私たちの細胞に適したNucleofectorプログラムを選択して,“X”キーを押すことで遺伝子導入が行われます.添付のピペットで培地を適量とり,キュベット内の遺伝子導入が完了した細胞と混ぜ,先ほどの6cmプレートの片方に移してください.細胞へのダメージを防ぐため,これは素早く行ってくださいね.時間内に終えるのが重要ですよ!
クリスティーンNucleofectorという遺伝子導入システムが具体的にどのように機能するか知りたいのですが…
ウラノ先生いい質問ですね! このシステムは細胞への遺伝子導入にエレクトロポレーションを使っています.この方法では,所定の細胞に特異な電気的パラメーターを用いることで細胞膜に穴が開けられ,目的遺伝子の発現を阻害可能な場所までsiRNAが入り込むことを可能にします.今回はPERKに対するsiRNAを使用していますね.私の言っていることがわかりますか?
クリスティーンわかりました.準備万端です.
ウラノ先生は説明した遺伝子導入の手順をやってみせ,クリスティーンがその後に続く.
ウラノ先生いいでしょう.それではインキュベーター内にプレートを24時間入れておき,有意なノックダウンが起きるのを待ちましょう.RNAを単離し,cDNAに変換し,定量的リアルタイムPCRでPERKの発現レベルを測定することで,ノックダウンの度合いを測ることができます.これらのステップは機会をあらためて細かく見ていきましょうね.