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Script7「聞く・見る・数えるノックダウン―確認を重ねる」

【1】全文のネイティブ音声

 

【2】全文の対訳

ウラノ先生は今日,siRNAを用いた目的遺伝子の一過性ノックダウンのやり方をクリスティーンに教えるつもりである.ウラノ先生は,Nucleofectorという遺伝子導入技術(Lonza社)を用いてラットのインスリノーマ細胞株にPERKに対するsiRNAを導入してみせる(PERKはERの膜貫通型キナーゼで,UPRというシグナルネットワークの制御にかかわる).クリスティーンは細胞培養室にいるウラノ先生のもとへ遅れて到着する.

クリスティーンこんにちはトーマス.遺伝子導入の準備はできているのですか?

ウラノ先生ええ,準備完了ですよ.INS-1細胞のトリプシン処理をはじめたところです.さて,細胞を数えて,遺伝子導入の1反応あたり200万細胞を使いましょう.まずは私が1回遺伝子導入をしてみますから,次はあなたの番ですよ.計400万細胞が必要ですね.

クリスティーンちょっと質問です.どのように細胞を数えるのでしょう?

ウラノ先生10 mLの新しい培地を加えてトリプシン処理を終わらせましょう.そこから大体10μLの培地をとって,この血球計算盤のチャンバーに乗せましょう.次にその血球計算盤の上にカバーガラスを乗せ,光学顕微鏡下で観察します.

クリスティーンは熱心に耳を傾け,作業をこなす.

ウラノ先生いいでしょう.グリッド上の4つの大きな4×4の四角に入っている細胞の数をかぞえてください.それから4つの平均をとって,1万を掛け算しましょう.その値が,1mLあたりの細胞数になります.

クリスティーン1万と仰いましたか?

ウラノ先生はいそうです.確認は大切ですね.

クリスティーンが細胞計数機を使っているあいだ,ウラノ先生はあたりをぶらついている.

ウラノ先生実験に必要な細胞懸濁液の量を決めるため,400万を細胞計数から決めた数で割り算しましょう.今回の場合,1mLあたり129万の細胞がいますね.ですから,実験には約3.1 mLの細胞懸濁液が必要です.それでは細胞をスピンダウンし,上清を除いて,INS-1細胞への遺伝子導入用にデザインされたNucleofectorキットに付属の特別なNucleofector溶液400μLに再懸濁しましょう.これらのステップが片付いたら,また私をつかまえてくださいね.

クリスティーンは細胞を遠心し,上清を除き,Nucleofector溶液で細胞を再懸濁する.クリスティーンは作業終了をウラノ先生に知らせる.

ウラノ先生いいですね.では,細胞に遺伝子導入を行うためNucleofectorの機械を使いましょう.私たちが使っているNucleofectorのキットには,キュベットと使い捨てのプラスチックピペットが付いています.遺伝子導入のために3μgのsiRNAと,2mLの培地を加えた6cm培養プレートを2つ準備しましょう. Nuclofector溶液に懸濁した細胞を100μLとり,3μgのsiRNAを加えてください.混合液を添付のキュベットに入れて,キュベットを機械の中にはめます.次に私たちの細胞に適したNucleofectorプログラムを選択して,“X”キーを押すことで遺伝子導入が行われます.添付のピペットで培地を適量とり,キュベット内の遺伝子導入が完了した細胞と混ぜ,先ほどの6cmプレートの片方に移してください.細胞へのダメージを防ぐため,これは素早く行ってくださいね.時間内に終えるのが重要ですよ!

クリスティーンNucleofectorという遺伝子導入システムが具体的にどのように機能するか知りたいのですが…

ウラノ先生いい質問ですね! このシステムは細胞への遺伝子導入にエレクトロポレーションを使っています.この方法では,所定の細胞に特異な電気的パラメーターを用いることで細胞膜に穴が開けられ,目的遺伝子の発現を阻害可能な場所までsiRNAが入り込むことを可能にします.今回はPERKに対するsiRNAを使用していますね.私の言っていることがわかりますか?

クリスティーンわかりました.準備万端です.

ウラノ先生は説明した遺伝子導入の手順をやってみせ,クリスティーンがその後に続く.

ウラノ先生いいでしょう.それではインキュベーター内にプレートを24時間入れておき,有意なノックダウンが起きるのを待ちましょう.RNAを単離し,cDNAに変換し,定量的リアルタイムPCRでPERKの発現レベルを測定することで,ノックダウンの度合いを測ることができます.これらのステップは機会をあらためて細かく見ていきましょうね.

【3】発音のKEY POINTS「O」

 

誌上留学!ラボ英会話のKEY POINTS Web留学編 目次

プロフィール

浦野 文彦(Fumihiko Urano)
1994年,慶應義塾大学医学部卒業.慶應大学医学部病理学教室にて小児病理学,分子病理学を学ぶ(秦順一教授指導,元国立成育医療センター総長).’98年からNew York University School of Medicine分子病理部門研究員(David Ron教授,現University of Cambridge教授),2002年よりUniversity of Massachusetts Medical School助教授,’08年より准教授,’11年永久教授権獲得,2012年7月よりWashington University School of Medicine, Samuel E. Schechter冠教授就任.’11年,American Society for Clinical Investigation会員に推挙される.小胞体ストレスが,老化,糖尿病,神経変性疾患に与える役割を研究しています.また,小胞体ストレス病(Wolfram syndrome)の患者,家族を支えるためのクリニックを運営しています .興味のある方は次のサイトをご覧ください(to wwwhttp://www.erstress.com , to wwwhttp://fumihikourano.blogspot.com/ & to wwwhttps://wolframsyndrome.dom.wustl.edu/).
Christine Oslowski
2007年,マサチューセッツ大学を卒業し,同大学医学部医科学博士課程に入学.2012年,浦野教授の研究室で博士号を取得し,現在はボストン大学医学部でポスドクとして研究に,また教育に励んでいる.
Marjorie Whittaker
ボストン大学でSpeech-Language Pathologyの修士号を取得後,耳の聞こえない子供達の発音を矯正する仕事に従事.その後,外国人エンジニア,医師などの発音矯正の授業,コンサルティングを行う,The Whittaker Groupを設立する.2006年には,Lynda Katz Wilner先生とともに,ESL RULESを設立し,英語の発音に関するセミナーを主宰し,『RULES』,『Medically Speaking RULES』,『RULES BY THE SOUND』,『Medically Speaking Idioms』といった本の出版をしている.詳細は,to wwwhttp://www.eslrules.comto wwwhttp://www.prospeech.comまたはまで.
プロフィールは実験医学掲載当時のものになります.

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