「眠れないと翌朝の血圧が高くなる」など不眠による生活習慣病の悪化を心配する患者さんもいます.それでは,はたして不眠を治療すれば生活習慣病が改善すると言えるのでしょうか? 順に考えてみたいと思います.
睡眠不足は脳機能の低下を招き,仕事のミスや事故のリスクを高めます.さらに近年のラボの研究では睡眠不足によって耐糖能の低下や食欲の増加を招くことが報告され1),疫学研究でも睡眠不足によってさまざまな生活習慣病のリスクを高めることが裏づけられています2).
ただし,不眠の患者さんに前述の睡眠不足と生活習慣病の関連を当てはめることはできません.その理由は不眠の患者さんは自分の睡眠を過小評価してしまい,睡眠時間を短く認識する傾向をもつからです.もちろん,睡眠時間が短い不眠の患者さんもいますが,一律に“不眠の患者さんは睡眠不足”という認識は間違いです.
最近,不眠と生活習慣病の関連が注目され報告されるようになってきましたが,こうした研究は多くの問題をかかえています.特に研究者の頭を悩ませるのが,不眠を生じ,しかも有病率が高い睡眠時無呼吸症候群の存在です.睡眠時無呼吸症候群は高血圧や耐糖能障害などと関連すると言われますが,その影響を正確に評価するためには多大な労力を要する終夜睡眠ポリグラフィが必須で,なかなか大規模な研究が行えません.
不眠の治療が高血圧や糖尿病などの改善につながるかどうかという研究はほとんどありません.つまり,不眠の治療は不眠で困っている患者に対して必要な治療と位置づけられるべきで,不眠と生活習慣病を一石二鳥に治療できるわけではありません.
小川朝生,谷口充孝/編
定価 3,500円+税, 2013年2月発行
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