狭心症発作のときにニトログリセリンを使うことは,皆さん知っていると思います.このニトログリセリンは,ダイナマイトの原料でもありますが,火薬がなんで狭心症に使用されるようになったんでしょう?
昔ヨーロッパで,火薬工場で働いていた作業員が,休暇明けに出勤して仕事をはじめると,ひどい頭痛やめまいに悩まされるという苦情が相次ぎました.一方で,狭心症を患う従業員が,自宅では発作が起こるのに工場では起こらないというエピソードがあり,これに注目した医師が「火薬には血管を拡張させる作用があるんじゃないか?」と考えて研究したことで発見されたといわれています.
このメカニズムは長年未解明だったんですが,1990年代になって,ニトログリセリンが加水分解されて硝酸ができ,さらに還元されて一酸化窒素(NO)が産生され,それが血管拡張のシグナル伝達物質である,ということが発見され,1998年のノーベル生理学・医学賞の対象となりました1,2).NOのような気体が,血管拡張や神経伝達,免疫反応のメディエーターとして働いているという発見は,生理学や薬理学の発展に大いに貢献し,世界を大きく変えたといっても過言ではありません.
ちなみに,現在医薬品として使われている硝酸化合物は,硝酸イソソルビドなどのニトロ基をもつ硝酸系の薬品が主で,医薬品のニトロをいくら集めても爆薬にはならないし,医薬品が爆発事故を起こすこともありませんよ.