食事の後に急に走るなどの激しい運動をすると,左わき腹が痛くなる経験はみんなしたことがあると思います.急激な酸素の消費による横隔膜の虚血やけいれんによる痛みだという説もありますが,そうであれば左わき腹だけが痛くなる説明には説得力がありません.なぜ左わき腹痛が起こるのか,考えてみましょう.
食事をすると,生体は消化のために腸管への血流を増加させます.それによって門脈への血流が増加し,相対的に門脈圧が上がって脾臓のうっ血が起こるという説明をしている文献もあります.ですが,食事や運動のときには,脾臓の大きさはむしろ小さくなることが証明されているのです.
スウェーデンのカロリンスカ病院で行われた研究で,健常者20人に食事をさせ,その前後でCTを使って脾臓のサイズを測定すると,脾臓のサイズは食後に3%ほど小さくなることがわかりました1).食後には腸管に多くの血流が必要になり,血液のリザーバーとして脾臓が収縮して脾臓に貯留している血液を動員するためと推定されています.同様に,運動によって骨格筋にもっと多くの血流が必要な状況になると,脾臓に溜まっている血液が奪われることが予想されますが,これも実際に運動中に脾臓が収縮することが実験的に証明されているのです2).
こうして考えてみると,食事や運動はどちらも脾臓を急激に収縮させることから,これをわき腹の痛みとして感じるという説明が最も納得できると思われます.したがって,わき腹の痛みをなくすには,脾臓が急に収縮しないように身体を慣らす,具体的には食後十分時間をとって,少しずつ運動強度を上げていく以外にないようです.
脾臓は腎臓や胆嚢のように痛みを感じることは稀で,比較的一般診療ではなじみが薄い臓器なのですが,食後に運動して自分の脾臓を感じてみたらいかがでしょう.