僕が週1回当直している病院は,大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン®のそばにあることで,なかなかユニークな患者さんがこられます.昨年のハロウィン・ホラー・ナイトでは,ゾンビに扮したスタッフがお客さんに突き飛ばされ,肩関節脱臼で搬送されてきたのですが,肩を下げて痛そうに歩く姿はリアルに怖いものでした.このようなテーマパーク特有の患者さんのなかには,ジェットコースターに乗ったあとに嘔気や気分不良のほか,頭痛を訴える方がいるのですが,これはroller coaster headacheと呼ばれ,注意が必要です.
ジェットコースターは,もちろん十分な検証に基づいた安全基準が厳しく定められていて,安全性は保障されているはずです.頭部に加速度計をつけた健常人にジェットコースターに乗ってもらってデータをとった報告がありますが,Gの力だけでは頭に影響はなく,ジェットコースターは通常のスポーツ,例えばサッカーのヘディングと同様,あるいはそれ以下のリスクしかない,とされています1).しかし,実際にはこれまでにジェットコースターの直接的な影響が考えられる硬膜下血腫2,3),くも膜下出血4),髄液漏出症候群5)などの報告があり,影響は無視できないようです.いずれも,機械的な脳の振動,および血圧の急上昇が原因の1つだろうといわれていて,硬膜下血腫については架橋静脈の過伸展が推測されています.
近年,ジェットコースターは最高時速240 kmまで高速化していますし,高低や傾斜角度はますます激しくなっています.どことは言いませんが,日本からも同一施設からの報告が3例報告されていて,これはやはり危険を承知で乗るものなのでしょう.ジェットコースターに乗ったあとに頭痛を訴えた患者さんは,外傷がなくても頭部CTを撮っておく必要があるでしょう.画像で異常がなくても,片頭痛のような症状が続く患者さんも報告されていて,画像では指摘できない微細な病変があることも推測されます.またこれらの患者さんはすべて頸部痛を訴えていることも重要で,だいたい1時間後から10日までに症状が現れています.
年齢制限や「既往がある方はご遠慮ください」と書いてあっても乗りたい人は乗りたいでしょうし,これを自己責任というのでしょう.ジェットコースターが意外と危険な乗り物であることは認識しておいていいのかもしれませんね.