夏には海で怪我をしたり,魚やくらげに刺されたりした患者さんが救急外来にきます.海の生物による刺傷に対しては,酢,イチジクの汁,サボテン,尿,などこれまで多くの民間療法ともいうべき治療法の報告があります.しかし,海の生物による刺傷は比較的多いにもかかわらず,その正しい処置に関しては意外と知られていません.
オコゼやカサゴには背中に,またエイには尾に毒棘があります.これで刺されるとかなり激痛があるようで,泣きながら受診される大人も珍しくありません.海洋生物に刺された際の正確な応急処置法は,日本中毒情報センターがインターネットで公開しているページから知ることができます1).これによると,これまでわかっている魚類の刺毒はほぼ共通で,アミノ酸やセロトニンを含むため,似たような薬理学的性質をもっています.これらの毒に含まれる致死的成分や発痛物質は比較的分子量が大きな物質であり,不安定で熱で急速に分解することがわかっていますから,できるだけ熱いお湯(45℃程度)に刺された部分を30〜90分浸すことにより,毒が不活化し疼痛が軽減すると書かれています2).
一方で,くらげに刺された場合には,毒液と刺糸を含む触手が刺傷部に残っていることが多く,それをすみやかにとり除くことが大切です.塩水,あるいは食卓酢に30分以上局所を浸すとよいといわれていて,真水を使ってはいけないそうです.その理由は,真水に刺激されてさらに触手から毒が出てしまうからといわれています.ちなみに,オコゼに刺された場合の初期対応についてGoogleやYahooの検索エンジンで調べてみると,ほぼ8割が誤った情報であり,特に情報の出典が不明瞭な場合には注意が必要です3).
以前,魚の棘で怪我をした患者さんが,広範囲の壊死と敗血症性ショックで入院されたのをみたことがあります.魚介類の皮膚に付着し増殖するビブリオ・バルニフィカスというグラム陰性桿菌が刺傷部から感染したことが原因です.この菌は,感染すると数時間から1日の潜伏期の後,皮膚の壊死,発熱,血圧の低下など敗血症性ショックとなり,致死率が50%以上という恐ろしい病態を引き起こすため,人食いバクテリアといわれています.
関係ない話ですが,私が広島県の山奥で後期研修をしていたときには,マムシ咬症が非常に多く,また機会があれば勉強していただければいいと思いますが,ここでは患者さんはほとんどの場合,「こいつに咬まれたんじゃ」といって咬んだマムシを捕まえて一升瓶の中に入れて持ってこられました.海では,これまで加害生物を捕まえてきた患者さんに会ったことはありません.