頭痛は,救急・総合診療でも多く遭遇する症候です.なかでも,発作性かつ拍動性に起こる片頭痛は,人口の約8%にみられるとされ,しばしば悪心・嘔吐を伴うこともあるため,日常生活に支障をきたし悩んでいる人が多い頭痛です.脳の器質的病変を伴わないことから,なかなか有効な治療法も確立されていません.この片頭痛と卵円孔開存に深い関係があるという研究結果が2014年に発表され,注目されています1).
ご存じのように,卵円孔は胎児期に胎盤からの酸素を多く含んだ血液を右心房から左心房を経て全身へ流すための通路です.卵円孔は出生後には自然に閉鎖しますが,健常成人の15~25%は閉鎖せずに開存したままといわれています.通常,卵円孔が開存しても大きな問題は起きませんが,心臓に右から左へのシャントがあることで,静脈系にある血栓が卵円孔を通過し,脳梗塞の原因になることが知られています.また,静脈系にある気泡が動脈系に移動して空気塞栓をきたし,潜水病のような症状がでやすいことも報告されており,これらは循環動態からも,容易に想像することができます2).
しかし,片頭痛と卵円孔開存の関係については明確な説明がなされているわけではありません.現時点では,セロトニンなどの血管作動物質や,その他の片頭痛を誘導するような物質が卵円孔を通過し,肺でトラップされることなく直接大動脈に入るためであると推測されています.
実臨床では,卵円孔を閉鎖する手術を行うと,高い確率で片頭痛が軽快することがわかっています.ロンドンの病院では,月に5日以上頭痛を感じ,発作前に前兆がある比較的重症の成人片頭痛患者(18~60歳)443人のうち,心エコーで卵円孔開存が確認された147人を対象に,卵円孔を閉鎖する手術を実施する群(74人)と,偽手術を行う群(73人)に割り付けて経過を観察したところ,片頭痛の発作日数が半分に減った患者は,実手術群では42%,偽手術群では23%と有意な違いがみられたと報告されています3).宣伝になりますが,我が岡山大学の赤木禎治准教授らのグループは,片頭痛の患者さんで卵円孔開存がある方へカテーテル手術を積極的に行い,一定の効果があることを示しています.
皆さんも,これで片頭痛の患者さんを診たときに,心エコーのオーダーを出せますよね.卵円孔開存と片頭痛,一見何も関係ないようなことに気づくことが,大発見を生むこともあるのです.