医療機関はどこも医師不足ですが,特に救急の分野では顕著です.教授になってもこれほど夜勤や休日のシフトをこなさねばいけないとは思いませんでしたが,私はそれほど救急患者さんを診るのが嫌いなわけではないので,まだ週2回以上の夜勤をしています.
岡山市は都会とはいえないので,みんな東京や大阪へ出て行ってしまい,医師不足になる,と思っていましたが,実は岡山県には人口10万人あたり287.8人の医師が医療施設に従事しています(平成26年12月31日の時点)1).日本の医療施設従事医師数は平均で人口10万人あたり233.6人ですから,これは決して少ない数字ではありません.最も多いのは京都府で307.9人,東京都は304.5人と岡山県は決して大きく負けているわけではありません.ちなみに,最も少ないのは,埼玉県で152.8人です.こうしてみると,田舎だから医師が少ないというわけでもなさそうです.
しかし,医師の地域格差というのは世界共通の悩みのようで,国際的にもこれを解消するため,多くの研究が行われています.アメリカでは,地方出身者は比較的田舎で医師をやっていく傾向にあるそうです.田舎は競争も激しくなく,給料も高い傾向にあることが要因の1つとされています2).注意しておかないといけないのは,アメリカと日本の間には働く病院を選ぶうえで決定的な背景の違いがあることです.アメリカは医学部の学費をローンで借りる人が約80%もいて,卒業のときにはおおかた2,000万円の借金をかかえるのが普通です.日本はほぼ親から学費をもらって卒業しますから,研修先や就職先をお金で選ぶことはあまりしません.
このように医師がキャリアをどこで過ごすかについては,出身地,専門診療科,給料など多くの因子があり,そのなかでも最も大きな影響を及ぼすのは,パートナー,配偶者の意見であるといわれています3).つまり,田舎出身のパートナーがいる医師は,田舎で働くことを選ぶのです.一方,難関の大学を卒業したいわゆるエリート集団は,パートナーに影響されず,田舎を選ばない傾向にあることも指摘されています.
そういう私も例に漏れず,京都出身ではありますが,結局妻の出身地である岡山で仕事をしています.岡山県に多く医師を確保したければ,岡山県人と結婚してもらうことを第一に考えればいいのかもしれません.