救急をやっていますと,自殺を図って搬送される患者さんが多くおられます.特に春先には多く,これは新年度がはじまって環境や学校の変化が原因の1つかと思われます.しかし「年度」という制度をとっていない欧米などの諸外国ではどうなのでしょうか?
欧米ではご存知のとおり9月が新学期ですが,アメリカ合衆国のアラスカ州でも,自殺者数のピークは4〜8月にあると報告されています1).では,季節が逆の南半球ではどうかというと,ブラジルのサンパウロで14年間の6,916人の自殺者を調べたところ,11月頃がピークになるようで,これは北半球の春先にあたります2).スイスでは1876〜2000年までの125年間に,自殺者の季節による変化はどうであったかを調べています.これによると,1900年頃は5〜7月の自殺者数は最も少ない12月頃の約1.6倍もあります.この傾向は現在も続いていますが,徐々にその差は小さくなっていき,2000年頃には最も少ない12月の1.1倍程度であったとされています3).100年前には自殺の方法も複雑で,今と単純に比較はできませんが,昔から春先に自殺が多かったのは興味深いことです.このように,自殺者が春先に多いのは世界的にもみられていて,日本特有の新年度による環境の変化だけでは説明がつきません.
そのメカニズムについては,春先には日照時間が増えてくるので,メラトニンが減少し,これが自殺のスイッチを入れるという推測がなされてきました.最近の研究で,アメリカの自殺した495例の軍人の2年以内に採取した血液を調べたところ,ビタミンDの低下と自殺率には相関があることが報告されており,日光は自殺と関係があるのかもしれず,日光浴が自殺を予防する可能性があるのかもしれませんね4).さらに,春先にわれわれを悩ますものといえば,花粉ですが,花粉アレルギーと自殺にも相関があると報告されています5).
死んでしまいたいことは誰にもありますが,実際に自殺された方のなかには後悔している方もいるかもしれません.春先の自殺をめぐる研究をきっかけに予防策が進み,少しでも悲しい出来事が減ればいいのにと思っています.