雨の多い時期になりました.天気によって気分や体調が悪くなってしまう人もいるかと思います.今回は天気と関係の深い気圧が身体へ与える影響についてお話ししたいと思います.
人間,気圧の変化によって多少なりとも体調が変化することがあります.メニエール病の患者さんは,気圧が症状の出現に大きく関係し,気圧が上がると翌日にめまいなどの症状が出やすくなることが報告されています1).一方で,低気圧のときは偏頭痛が起きやすいという仮説が検証されていますが,気圧と偏頭痛の出現頻度に相関はなかったそうです2).
しかし,われわれのいる救急医療の現場で最も気圧の影響を受ける患者さんは,開頭減圧術を受けた患者さんに違いありません.開頭減圧術は,くも膜下出血や外傷,広範囲の脳梗塞の後の脳浮腫などで脳圧が上がり脳ヘルニアが懸念される場合に,その治療や予防,救命のために行う手術です.これは,文字通り高くなった頭蓋内圧を逃がすために行う手術で,頭の片側の頭蓋骨の一部を大きく外します.外した骨は凍結保存しておき,後に脳の腫れがひいてから再び元の場所に戻します.
頭蓋骨がない状態では,皮膚の下はすぐに硬膜や脳であり,ふにゃふにゃしています.このような頭蓋骨をはずした患者さんは,骨欠損部の皮膚が沈んだようになりSinking skin flap syndromeと呼ばれる病態を起こすのです.これは,気圧が直接脳に影響するために起こり,圧がかかった脳局所では脳血流量と脳代謝が低下して,片麻痺や失語,激しい頭痛,精神変容,痙攣などを誘発します.これらは,骨を戻す頭蓋形成術を行うことで軽快することが多く,頭蓋骨の大切さを思い知るきっかけになります3).頭蓋骨が事故などで破損していても,セラミックやチタンなどの金属で人工の頭蓋骨がつくれるので,心配はいりません.
ちなみに,登山をしていて頭痛がするのは,気圧が下がったためという説もありますが,低酸素によって代償的に脳血管が拡張することがその原因であるという説が有力です.